国土交通省が管理する大阪(伊丹)空港を株式会社化し、関西国際空港と経営統合したうえで民間に売却するという国交省の方針が波紋を広げている。
関空は1980年代の中曽根内閣が進めた「民間活力の導入」で、官民出資の関西国際空港会社が海上を埋め立て建設したが、今なお1兆1000億円の有利子負債を抱える。
関空を救済するための統合案
関西では関空、伊丹、神戸の3空港が併存し、旅客や貨物を食い合っているが、国内線専用で最も乗降客数が多いドル箱の伊丹を関空ともども民間へ売却し、有利子負債の圧縮に充てようというものだ。両空港は12年春の経営統合を目指すというが、果たして政府に勝算はあるのだろうか。
関空を救済するための今回の統合案は、国交省の成長戦略会議(座長・長谷川閑史武田薬品工業社長)が2010年5月末の最終報告で取りまとめ、6月に閣議決定する政府の新成長戦略に盛り込まれる予定だ。国交省は国営の伊丹空港を官民出資の株式会社とし、持ち株会社を設立して関空と伊丹を傘下に置く方針だ。最終的にはこの持ち株会社がもつ両空港の運営権を最大8000億円で民間に売却し、関空の有利子負債の圧縮に充てるというものだ。
大阪中心部から30分程度と便利な伊丹は利便性が高いものの、かつては騒音問題に揺れ、海上を埋め立てて関空を建設した経緯がある。関空は騒音問題をクリアする24時間運用空港となったが、大阪中心部からJR快速で1時間と遠いのがネックになり、就航路線が増えず、収益性に劣る。
逆に国内専用となった伊丹は航空機材の小型化で騒音問題が緩和され、皮肉にも廃港どころか、年間40億円の黒字を計上するドル箱空港になった。
大阪府の橋本徹知事は、関空を名実ともに国際ハブ空港とするため、伊丹の廃港を主張。東京-大阪にリニア中央新幹線が開業する予定の2045年には、黙っていても伊丹の需要が減り、廃港が現実味を帯びることは自明だ。
高くても4000億円まで?
国交省の思惑通り、12年春に伊丹が株式会社となり、関空と経営統合したとしても、売却益を稼げなければ民営化の意味がない。果たして最大8000億円も投資して、関空・伊丹の運営会社を買い取る企業など現れるのだろうか。しかも、民間に売却するのは、空港の不動産は含まない、あくまで運営権だけの会社だ。リニア中央新幹線が開業後、廃港となった伊丹の跡地を政府は売却するという。そんな複雑で不安定な物件を誰が買うのか。
地元財界からは早くも疑問の声が上がっている。関西経済同友会の中野健二郎代表幹事(三井住友銀行副会長)は記者会見で、関空・伊丹の民間売却案について「実現性がない。私が判断する立場なら投資はしない。買い手がつくとは思えず、実現は不可能だ」とバッサリ切り捨てた。国交省が当て込む8000億円という値段についても「高くても4000億円までだと思う」と否定的見解を示した。
4000億円以下とすると、関空の有利子負債を一気に圧縮するという国交省のシナリオは根底から崩れる。少なくとも現在の経済情勢で、日本企業が関空・伊丹の売却に食指を動かすとは考えにくい。名乗りを上げるとすれば、中国や中東産油国など日本進出を狙う海外投資ファンドではないか、との観測が早くも飛び交っている。