証券各社の業績がようやく回復してきた。主要5社の2010年3月期連結決算は、株価の回復や増資ラッシュを追い風に、08年秋のリーマン・ショック後の金融危機の影響で全社が最終(当期)赤字になった前期から一転して、全社が黒字を確保。
特に野村ホールディングス(HD)は、最終(当期)損益が、前期の7081億円という空前の赤字から、678億円の黒字に3期ぶりに黒字転換した。ただ、旧リーマン北米事業を買収した英バークレイズ・キャピタルなど欧米勢に比べると収益回復の遅れは明白。欧米勢に追いつくには、国際金融市場の主戦場の米国での事業強化が大きな課題となる。
「勝ち組」米GSの利益は約3200億円
各社とも株価の回復の下、個人向けの投資信託販売などが好調で、法人向けも、大手企業が相次いで巨額増資を行ったことによる引受手数料の伸びなどで収益がアップし、全体の黒字回復を後押しした。
野村HDは、各国市場の株価の回復に加え、リーマン買収効果もあって、市場取引部門の税引き前損益が、前期の5746億円赤字から1720億円の黒字へと急回復。日本国内の営業部門も、売上高が前期比3割増えた。さらに、投資銀行部門は、4月1日の第一生命保険上場の主幹事など大型案件を手がけたことが貢献し、黒字転換を果たした。
だが、英バークレイズの09年12月期の税引き前利益は24億6400万ポンド(約3500億円)で、野村HDの10年3月期の3倍以上と水をあけられている。10年1~3月期でみると、野村HDの純利益184億円に対し、金融危機を乗り切った「勝ち組」の米ゴールドマン・サックス(GS)は約34.6億ドル(約3200億円)、モルガン・スタンレーは約17.8億ドル(約1600億円)で、野村HDは大きく引き離されている。
モルガンは野村HDの投資判断を引き下げ
市場関係者によると、バークレイズは、旧リーマンから引き継いだ北米事業の有効活用で、09年の米国でのM&A(企業の合併・買収)案件の取引額順位を前年の7位から5位に上げたのに対し、リーマン欧州事業を買収した野村HDの09年の欧州での取引額順位は25位圏内にも入れない体たらく。世界市場での1~3月期の法人向け売上高シェアも、野村HDは2.7%にとどまり、GSの16.5%、バークレイズの9.1%に遠く及ばない。野村HDは「米国でのシェア拡大が最重要課題」(仲田正史・執行役)と位置づけて巻き返しを図るが、道のりは容易ではない。
決算発表を受け、モルガンスタンレー証券は4月末、野村HDの投資判断を「Overweight」(資産配分を決定する際の配分比率を基準より多くする)から「Equal-weight」(基準並み)へと引き下げ、目標株価も850円から700円へと下方修正した。
第4四半期(10年1~3月期)決算が業績予想を上回ったことや、適切なコスト管理体制は評価する一方で、業績回復度合いはメガバンクや保険会社よりも遅いのにPBR(株価純資産倍率)は相対的に高いとし、今後の収益力アップも野村HDの想定よりも遅くなる可能性が高まったと判断した模様だ。