「問題なし」としているわけではない
WHOが1990年に発表した調査報告によると、50ppmという数値が、神経症状が出る可能性がある下限値だとされる。調査対象者の3.1%にあたる32人が、この数値を超えていた。
前出の全国調査では、男性の水銀濃度が高い方から並べて5%にあたる数値が7.2ppmだった。今回の調査でも、165人の毛髪から7.2ppm以上が検出され、そのうち同意を得られた人に対しては、専門医が運動機能などを測定し、診断を行った。
その結果、国水研が出した結論は、
「太地町住民の毛髪水銀濃度は、国内14地域と比べると顕著に高く、それがクジラやイルカの摂取と関連することが示唆された。しかし、今回の健康調査の範囲内では、メチル水銀中毒の可能性を疑わせる者は認められなかった」
というもの。いわば、「クジラやイルカを多く食べている分、水銀濃度が明らかに高いが、実害は出ていない」といったところだ。
ただし、前出のWHOの報告によると、妊娠している女性の毛髪水銀値が10~20ppmの場合でも、胎児に障害が表れる危険性が5%あるとされる。今回の調査結果では、調査対象者に妊娠している女性が含まれているかどうかは明らかにされていない。
国水研でも、決して「問題なし」としている訳ではないようで、
「毛髪水銀濃度の非常に高い者を認めるため、健康影響の調査の継続が必要」
と、継続的に調査が必要だとの立場だ。