撤去自転車を自治体の集積所から金を払わずに取り返したところ、窃盗事件として取り扱われた――。自転車の所有者側からは、「民事の問題なのにおかしい」との不満が出ている。一方、行政側は、不公平感を生むなどとして今後も警察への通報を続ける構えだ。
「自転車取り返し窃盗」。こんな聞き慣れない名前の事件が、東京都区部などを舞台にクローズアップされてきている。
練馬区の女性は、窃盗罪で起訴猶予に
きっかけは、撤去自転車の集積所から手数料を払わずに持ち帰る人が相次いだことからだ。東京新聞の2009年10月6日付記事によると、東京・練馬区では、同区在住の女性(41)が盗まれたと思った自転車が集積所にあったため、金を払わず持ち帰ると窃盗の疑いをかけられた。
この女性は、地下鉄駅で駐輪場が分からず近くのレストラン敷地内に自転車を止めたところ、翌日には自転車が消えていた。その後、警察に窃盗の被害届を出したが、集積所に撤去されているのを知り、出向いた。練馬区が業務委託している同区都市整備公社によると、女性の自転車は、盗まれたのか分からないものの、公道に放置されていたという。
女性は、公社から手数料4000円を求められ、盗まれたのに払うのはおかしいなどと考え、押し問答の末、金を払わずに自転車を持ち帰った。
ところが、1週間ほど後、男性警察官2人が深夜2時に自宅を訪れ、警察署に連れて行かれて窃盗の疑いがあると言われた。再度行くと両手の指紋と顔写真をとられたという。都市整備公社が警察に通報したためで、窃盗の被害届けも出された。
これに対し、女性は警察署長に抗議文を出した。しかし、代理人の清水勉弁護士は、J-CASTニュースの取材に、女性は結局、書類送検され、起訴猶予処分になったことを明らかにした。微罪だったためとみられる。
東京新聞によると、警察に通報したり被害届けを出したりするのは、都区部では半数に当たる12区に上る。練馬区では、09年度は18人に同様なケースがあったとの情報がある。東京のほか、放置自転車問題が深刻な名古屋や大阪などでも可能性がありそうだ。
区役所側「不公平感を生む」などと説明
起訴猶予となった女性は、起訴・逮捕がされていないことから、窃盗の前科・前歴がつかないことになる。とはいえ、代理人の清水勉弁護士は、都市整備公社や警察の対応をこう批判する。
「これは、つけを払って下さいという民事の問題ですよ。刑事事件にはなりません。公社が自転車の占有権を持っていると主張しても、女性が自転車を貸したわけではないので、その根拠も怪しい」
女性は、その後、4000円の手数料を払っているとして、「警察に逆らったから、正式に被害届けを出させたのでしょう。警察の嫌がらせですよ」ともする。さらに、清水弁護士は、警察の点数稼ぎに公社が加担しているだけだと指摘する。
「駐輪場を管理する公社は、警察官の第2の就職先になっており、いわば警察のお仲間ですよ。警察は、仕事のノルマを達成するため、指紋と顔写真がほしいだけなのでは。検挙率を上げたいのでしょうね」
これに対し、練馬区都市整備公社の事務局長は、取材に対し、次のように理解を求める。
「自転車取り返しを野放しにすると、どんどん横行することになります。また、きちんとお金を払う人との間に不公平感が拡大してしまいます。私どもとしましては、確かにお金をいただいてしまえば終わりになります。しかし、それだからと言って、取り返し行為が消えるわけではなく、被害届けを取り下げることはできません」
取り返し行為は、占有権侵害かは分からないものの、留置権侵害にはなるという。夜中に集積所の柵を乗り越えて持って帰る人もいるといい、指をくわえて待つことはできないとする。
そのうえで、今後も警察への通報や被害届け提出を続けるとした。
公社に警察官OBがいるかについては、事務局長は、「職員や嘱託などにはOBはいません」と否定。ただ、シルバー人材センターから派遣されている場合はありうるという。