「消費が美徳」と教育できるかがカギ
――では、メランコ人間に消費をけん引してもらうことは可能でしょうか。
和田 メランコ人間は、生真面目で頑張りすぎるほど働く一方、自分の価値観にこだわって他人と一緒を嫌がります。周りを気にせず、ブームにも影響されにくいのです。
おっしゃるように本来であれば、たとえ周囲がモノを買わなくても自分が欲しいと思えばお金を使うメランコ人間の購買行動には期待できるでしょう。多くのシゾフレ人間がモノを買わない方向に傾いている今日でも、メランコ人間の性格であれば惑わされないはずです。ところが、メランコ人間は現実的・理論的でもあるため、今日の不況や年金問題など社会保障への不安から、今後の人生設計を考えて出費を抑え貯蓄に走っていると思われます。
――そうなると、やはり今後増えていくシゾフレの人たちを消費に向かわせることが重要だと思いますが、方策はありますか。
和田 「個人消費を増やす」ための施策として、私の提案は2つです。ひとつは、「お金を使った方が得」と思わせるような税制に変えること。例えば、サラリーマンの所得税率を引き上げる代わりに「必要経費」を認めてはどうでしょうか。所得税率が2倍になるけれど、食費や家賃など生活費にかかわる支払いも、きちんとした領収書さえ出せば経費として所得から差し引きます。お金を残しておけば高い税率がかかってしまいますから、「使ったほうがマシ」という心理がはたらくのではないでしょうか。これは、多額の財産を子どもに残そうとする傾向にある日本の「お金持ち」も、消費に向かうきっかけになるのではと思います。
――もうひとつは何ですか。
和田 教育です。昔は貯蓄や生産が美徳でしたが、「消費が美徳」という教育に切り替えるのです。シゾフレ人間は、周りがお金を使い出せば自分も同じ行動をとりますから、「みんながお金を使わないと国はどんどん寂れていく」と教育し、理解させる。
――しかし、昔から日本は節約や「清貧」をよしとしてきましたから、その考え方を180度転換するのは大変ではないですか。
和田 確かに、難しい。バブルのときですら「消費が美徳」ということはありませんでしたからね(笑)。
しかし、日本の製品の質や生産技術が向上してきたのは、モノを買う消費者の要求水準が高かったからです。単に生産性を伸ばせ、技術を磨けと言ったところで、「客がいないモノは伸びない」のです。国がどこまで本腰を入れて、消費の重要性を教育できるかによるでしょう。
シゾフレ化した社会を多少メランコに戻す教育も考えられます。そのひとつは、「みんな一緒がよい」というのを改め「競争も大事」と教育することです。昨年、ハイブリッド車がヒット商品となりましたね。不況の世の中でも、「環境に優しい」というように、買うことに意義があると認めれば購入するのがメランコの人たちです。「感情の老化を防ぐために遊んだり買い物をすれば、医療費は減り病気になりにくい」などと理屈に合った動機づけがあれば、メランコ人間は回りに流されることなく消費するでしょう。
日本を含む先進国は、将来的に人口の減少が予想されますから、このままいけば消費が増える見込みはありません。一方生産性は高まっていますから、このままでは生産と消費のギャップは広がるばかりです。これまでのように生産性アップの取り組みではなく、消費を増やす施策が必要です。
和田秀樹(わだ・ひでき)プロフィール
精神科医、国際医療福祉大学大学院教授、一橋大学国際・公共政策大学院特任教授。1960年大阪生まれ。85年東京大学医学部卒業後、東京大学精神神経科助手、アメリカ・カール・メニンガー精神医学校国際フェロー。老年精神医学、精神分析学(特に自己心理学)、集団精神療法学を専門とする。著書は『学力崩壊』『大人のための勉強法』ほか多数。テレビやラジオにも出演し、心理学、教育問題、大学受験など多くの分野で発言している。