ファストフードの先頭ランナーだった牛丼チェーン「吉野家」が失速している。「吉野家」を傘下に持つ吉野家ホールディングスの2010年2月期連結決算は、傘下のステーキの「どん」などの不振も相まって過去最悪の89億円の最終赤字に陥り、安部修仁社長らの役員報酬を減額する事態となっている。
巻き返しに向け安部社長は、4月14日付で事業子会社の「吉野家」社長を兼務し、現場の陣頭指揮を執る。浮き沈みは何度も経験している吉野家だが、今回も復活できるかが、外食業界の話題となっている。
「残念ながら、最悪の決算だ」
「残念ながら、最悪の決算だ」。14日の吉野家HDの決算会見の席上、こう語った安部社長の顔はこわばっていた。牛丼の吉野家のアルバイト店員から社長にまで上り詰め、自信家で笑顔を絶やさない「名物社長」の安部氏も、今回は動揺を隠せないようだった。
業績悪化の一因は、吉野家の客離れだ。デフレで低価格志向を強める消費者を刺激するため、2009年12月にライバルの「すき家」と「松屋」はそれぞれ、牛丼の並盛りの通常価格を280円、320円に値下げした。しかし、吉野家は「高価な米国産牛を使っている」ためこれに追随できず、通常価格の380円を変えなかった。もともと好調ではなかったところに割高感が生まれ、3月の既存店客数が前年同月比22.3%減と目も当てられない状況に陥っている。
客を呼び戻すため、一週間の期間限定で4月前半、並盛り270円の値下げを断行したが、ライバル2社は即座に250円セールで対抗。話題を呼ぶ宣伝効果はあったが、反動減などを考えれば「収益改善に向けた意味はあまりないセールだった」(アナリスト)と厳しい見方もある。
現場復帰した安部社長は翌日に主要紙とのインタビューを設定させ、復活に向けたアピールに余念がない。インタビューで共通しているのは「牛丼は値下げしない」「コスト削減を強化し、損益分岐点を下げる」の2点。売り上げはさほど伸びなくても利益の出る体質を目指すと言いたいようだ。
単純な安さより、価格と味のバランス
しかし、厳しいデフレの国内市場でも「餃子の王将」や「マクドナルド」「サイゼリヤ」など、低価格頼みではない独自戦略で売り上げを伸ばしているチェーンが、存在感を増しているのも事実。それぞれ単純な安さより、価格と味のバランスを重視しているようだ。
吉野家が「筋肉質」な経営を目指すにしても、売り上げが立つ改革を強化しなければ、客離れが止まらない可能性がある。80年に吉野家が倒産したのは、味が落ちたことによる客離れが主因だったとされる。04年に米国産牛肉が輸入停止になった時は、味を守るため、あえて牛丼の販売停止に踏み切った決断が逆に評価され、危機を乗り切った。
安部社長の唱えるコストダウンで経営は筋肉質になるかもしれないが、「味」の維持とは両立できるか、疑問視する声もある。陣頭指揮を執る安部社長が今後どのような改革を推し進めるか、ライバルチェーンは固唾を飲んで見守っている。