トヨタ車の急加速による大量リコール(無償回収・修理)問題にからんで、大手テレビ局ABCが流した再現映像が「ねつ造」された疑いが強まっている。トヨタ側は「誤った印象を視聴者に与えた」として、ABCに対して訂正・謝罪要求をしているが、ABC側は公式には応じておらず、「だんまり」を決め込んでいる。
問題とされているのが、2010年2月23日に米議会の公聴会で証言した、南イリノイ大学のデービッド・ギルバート教授だ。
アクセルペダルの配線を故意に変更
ギルバート氏は、「急加速のシナリオを3時間半で再現できた」と、電子制御装置(ETCS)の欠陥を指摘したが、トヨタ側は3月8日に公開実験を行い、「ETCSの安全性を確信している」と真っ向から反論。ギルバート氏の実験は、アクセルペダルの配線を故意に変更するなどして行われたものであることを明らかにした上で、「実際に走行する自動車に関する結論を導くには不合理だ」などとギルバート氏の実験の前提を批判した。
ギルバート氏は米ABCテレビにも出演し、「欠陥疑惑」を主張してきた。2月22日の放送でも、ギルバート氏による再現実験の様子を紹介したのだが、このリポートでも問題が指摘されている。急加速するトヨタ車の映像とエンジンの回転数を示すメーターの映像を合成して流したのだが、メーターは停止した車のものだったことが明らかになっている。
この報道にはトヨタ側も激怒している様子で、米メディアによるとトヨタは3月11日付けで、ABCニュースに対して訂正・謝罪放送を行うように求める文書を送付。文書では、
「『危険で加速がコントロール出来ない』という誤った印象を視聴者に与えるために、映像をねつ造した」
と、ABCを強く非難している。
3月の新車販売台数は回復基調
ABCは、現段階では要求に応じておらず、米メディアに対して、
「誤った判断をした。走行中の車ではカメラがゆれるので、良い映像が撮れなかった」
などと釈明し、謝罪要求については
「弁護士と検討中。返答はする」
などと答える程度にとどまっている。ABCのウェブサイトにも問題の動画が掲載されていたが、現時点では別の映像に差し替えられている。また、ギルバート氏も、トヨタ側の指摘に対して、目立った再反論をしている訳ではなく、「ねつ造疑惑」はさらに深まっている。
一方、ラフード運輸長官が3月30日に発表した内容によると、03年のスペースシャトル・コロンビア号の爆発事故をきっかけに設立されたNASA(米航空宇宙局)工学安全センター(NESC)のメンバーが、運輸省道路交通安全局(NHSTA)の調査に参加する。
米オートデータが発表した10年3月の米新車販売台数によると、トヨタ自動車の売り上げは前年同月比40.7%増の18万6863台。09年12月以来、3か月ぶりの増加に転じている。急加速の原因が解明されれば、回復基調にさらに拍車がかかることになりそうだ。