マスコミ嫌いで公の席に姿見せず 謎に満ちたローム社長が「交代」

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   東証1部上場の大手企業ながら、創業者の社長が52年間もトップに君臨し、創業初の社長交代。しかも、その創業社長は人前に出るのが嫌いで、決算発表やマスコミにもほとんど登場したことがない――。今時、耳を疑うような名物社長の交代が電子部品メーカー大手のローム(本社・京都市右京区)であった。

   ロームは知る人ぞ知る著名な電子部品メーカーで、創業者の佐藤研一郎社長(79)が立命館大の学生時代に京都市内に設立した抵抗器のベンチャー企業が前身。1958年に株式会社となり、71年にはいち早く、日本の電子部品メーカーとして初めて米シリコンバレーに進出し、世界に知られる半導体メーカーとなった。現在は半導体集積回路に加え、発光ダイオード(LED)にも力を入れ、売上高3000億円超の優良企業に成長した。

「顔写真がない」とマスコミあわてる

   電子部品業界で「勝ち組み」とされるロームを生み、育てたのが創業者の佐藤社長に他ならない。その佐藤社長が4月1日付で名誉会長に退き、沢村諭専務(60)が社長に昇格する人事が発表されたのだ。佐藤社長は3月末で取締役も退任し、経営の一線から退くという。

   創業以来初、半世紀を超える社の歴史で初の社長交代というだけでも驚きだが、マスコミ関係者が腰を抜かしたのは、その発表会見だ。大阪市内で行われた会見に佐藤社長は出席せず、沢村次期社長が佐藤社長の手紙を読み上げるという異例の形式となったからだ。

   その手紙には「リーマン・ショックの危機を脱し、若い世代にバトンタッチする時が来たと判断した」と退任の理由が書かれていただけでなく、佐藤社長が自ら姿を見せないことについて「従来から公の場に出ていない。どうかご容赦いただきたい」と記されていた。まさに前代未聞、空前絶後の社長交代会見となった。

   新聞やテレビなどマスコミがあわてたのは、これだけではない。著名企業の社長交代であれば、新旧社長の顔写真を紹介するのが普通だが、佐藤社長の場合は最新の写真がなかったからだ。佐藤社長はマスコミ嫌いで、インタビューにも滅多に応じず、この10年ほどは決算発表など公の席にほとんど姿を見せなかった。このためマスコミ各社とも、佐藤社長の写真のストックが限られ、掲載に苦労したようだ。

新入社員の入社式にも姿を見せない

   人前で話すことが苦手という佐藤社長のエピソードには事欠かない。決算発表はもちろんのこと、新入社員の入社式にも姿を見せないという徹底ぶりだった。それゆえに社員の間でも社長の顔は知られず、技術屋の佐藤社長が作業服姿で自社工場の機械を修理していたら、社員が社長と知らず注意したという逸話も残る。

   佐藤社長は一代で今日の世界的な電子部品メーカーを築き上げたカリスマ経営者であると同時に、少年時代はピアニストを志し、社長になってからも財団法人を設立してクラシック音楽を支援するなど、繊細さを併せ持つユニークな社長だった。数々の謎に満ちたカリスマ社長の交代がロームの今後にどんな影響を与えるのか、関係者ならずとも気になるところだ。

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