ゆうちょ肥大化は「金融の国家主義」だ
ゆうちょ銀行は毎年それなりの利益を計上している。それは、短期の貯金を元手にして期間の長い国債を買っているためだ(長期金利の方が短期金利よりも通常高いので)。しかし、国債を購入するだけであれば、個人が直接国債を買えば済む話でもある。「国債ファンド」たるゆうちょ銀行のために年に1兆2000億円を超える営業経費をかける価値がどこにあるのか、政府は説明をする責任があろう。
欧米では金融危機の反省から、金融機関がツー・ビッグ・ツー・フェイル(大きすぎて潰せない)にならないようにしようという動きが進んでいる。巨大な金融機関には「どうせ政府が助けてくれる」という甘え(モラルハザード)が生じがちだからだ。実際、英米をはじめ多くの国々で、大手金融機関を助けるために財政が悪化した、という苦い経験がある。
ゆうちょ銀行は従来から巨大で、金融市場の機能を歪める存在であった。それをますます大きくしようとする今回の動きは、「金融の国家主義」に他ならない。それでなくとも財政赤字が膨張して危機的状況にある昨今にあって、政府の役割をどんどん大きくしようというのは「百害あって一利なし」。再考を強く望みたい。
枝川二郎プロフィール
枝川二郎(えだがわ じろう)国際金融アナリスト
大手外資系証券でアナリストとして活躍。米国ニューヨークで国際金融の最前線で活躍。金融・経済のみならず政治、外交、文化などにもアンテナを張り巡らせて、世界の動きをウォッチ。その鋭い分析力と情報収集力には定評がある。