高橋洋一の民主党ウォッチ
お笑い民主の「天下り根絶」 自公政権より役人やりたい放題

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   民主党への期待のひとつに、天下り根絶があった。

   民主党は、野党時代は自公政権のものを超えて天下りを根絶するといってきた。私は、安倍政権のときに公務員制度改革を立案したが、当時から天下り批判に鋭かった民主党へ政権交代したので大いに期待していた。

   と同時に、一抹の不安もあった。民主党における公務員制度の事実上の司令塔が松井孝治官房副長官だったからだ。松井副長官は、経産省OBのきわめて実務能力の高い国会議員である。元公務員であるので制度や実情をよく知っている。その知りすぎていることが逆に仇になりやしないかと懸念していたのだ。

民主党の迷走

   福田政権下の2008年5月、公務員制度改革法の成立が確実になったときに、渡辺喜美行革担当相(当時)が涙したことを覚えているだろうか。ほとんど成立しないとされていた法案が土壇場の民主党の賛成で成立したのだ。たしかに、あの当時の民主党は建設的で公務員制度改革法の多くを受け入れた。

   ところが、そのとき松井議員は、各府省による個別採用を主張し、原案にあった幹部公務員の内閣による一括採用に反対し、その条項を削除した。実は、公務員制度改革には、幹部公務員に採用から退職までの一連の流れに即していえば、入口の一括採用、中間の内閣による一括管理(内閣人事庁構想)、年功序列賃金の是正、出口の天下り規制の3点セットが必要である。ところが、そのキモである一括採用に対し、松井議員はそれでは役人のモチベーションがなくなるという、役人のいいぶんそのままで反対したのだ。結局、公務員制度改革法の成立を優先して、その分、天下り規制を厳しくやるのなら、仕方あるまいということで、民主党の意向を受け入れた。

   ところが、政権をとった民主党は、天下り根絶と口ではいいながら、迷走した。日本郵政社長に、斎藤次郎氏(元大蔵事務次官)が天下り、副社長に坂篤郎氏(元官房副長官補)と足立盛二郎氏(元郵政事業庁長官)、さらに坂氏の前職であった損害保険協会副会長に牧野治郎氏(元国税庁長官)など、かつての野党民主党なら「天下り」と呼んだはずの人事について、今では「天下り」ではないといっている。そして、鳩山政権は自らの行為を正当化するように、天下りに対する考え方を修正してきた。

   天下りに関する政府見解によれば、「天下り」とは「府省庁のあっせん」による場合に限られ、かつ、「府省庁のあっせん」には、(1)大臣によるあっせん、(2)OBによるあっせんは含まれないという(昨09年11月6日にみんなの党の山内康一議員が提出した「政府の『天下り』および『わたり』の定義に関する質問主意書」と11月17日に閣議決定された政府の答弁書による)。

   これは、安倍政権のもとで成立した国家公務員法改正そのもので、今でも法律で規制されているものだ。鳩山政権になっても、法律破りはできないだろうから、最低限度の対応というわけだ。これでは、自公政権のときを超えて、天下り根絶はできないだろう。現にこれまでの「天下り」を見ると、自公政権よりやりたい放題ではないかとも思えてくる。

年功序列賃金の是正が必要

   さらに、ここにきてほころびがめだつ。4月中に閣議決定される予定の国家公務員の「退職管理基本方針」では、雇用調整に苦しむ民間など霞ヶ関の「外」に現役公務員を押しつけるものになっているようだ。しかし、それは、「天下り」ではないらしい。

   民主党は「天下り根絶」をいいながら、国家公務員総人件費の2割カットを主張してきた。鳩山政権が掲げる「天下りの根絶」では、退職勧奨を行わないで公務員が60歳定年まで働けるようにするという。となると、今の年功序列賃金では人件費が膨らむ。退職勧奨を行わない場合「2025年度の人件費は現在比で4000億円(20%)増加する」という。これで、国家公務員総人件費の2割カットをしようとすれば、数万人程度の国家公務員の地方移管と給与法改正による年功序列賃金の是正が必要になる。

   これはできない話とは思わない。例えば、国交省の社会資本整備事業特別会計の中の空港整備勘定(旧空港整備特別会計)を分割して地方へ移譲すれば、地方航空局等の5000人くらいを地方へ移管できる。また、厚生労働省の労働保険特別会計を分割して地方へ移譲しても、都道府県労働局等の1万人くらいを地方へ移管できハローワークも地方機関との統合で効率化できる。

   ところが、民主党は、地域主権をいいながら、地方支分局の地方移管もできず、支持団体に公務員労組がいるために給与法改正もできないのかもしれない。

   そこで、出てきたのが、「退職管理基本方針」による、民間企業への派遣のほか、大学や公益法人の研究所への休職出向、独立行政法人への役員出向枠を広げるという霞ヶ関「外」への人減らしである。

大学や公益法人研究所への出向 矛盾ないのか

   特に、民間派遣の拡充には、職員の所管に関係する民間への派遣を認めていない人事院規則の緩和が必要だが、そこまでしてやるべきなのか。雇用情勢が依然厳しい中、公務員だけは特別扱いなのか。また、補助金等の何らかの役所からの便宜を受けているところに、現役出向を頼むというのは、天下り根絶と根本的に矛盾するのではないか。民間からみれば、公務員が現役出向でくるのは拒めないだろう。それで、民間雇用を公務員側の都合で奪ってしまったらどうするのか。

   大学や公益法人の研究所への休職出向は、民主党は事業仕分けでさんざんムダといってきたことと矛盾しないのか。もう、霞ヶ関の意向がとおりやすい政策研究大学院大学では、教員数の大幅増の噂も聞こえてきている。

   独立行政法人への役員出向枠にいたっては、もうお笑いの世界である。役員出向なら天下りでないという前提であろうが、これは天下りよりたちが悪い。独立行政法人を人事の一環として霞ヶ関が利用しているし、独立行政法人の事情なんて全く無視で、押しつけである。役員出向か退職した天下りかは、外部の人からはわからず、どっちも天下りと同じだ。しかも、退職していないからといって、再び役所に戻ったときには勤続年数が水増しされて、より多くの退職金を手に入れられる。

   こうした霞ヶ関の「外」への押しつけは、「天下り」ではないというのだろうが、ここまで「天下り」の定義を変えてまで、「天下り根絶」をいうのはおかしいだろう。


++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。著書に「さらば財務省!」、「日本は財政危機ではない!」、「恐慌は日本の大チャンス」(いずれも講談社)など。


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