国内の会計基準を決める「企業会計基準委員会」が2010年3月11日、企業年金の積み立て不足額を全額、賃借対照表(BS)に反映させるよう求める会計基準の公開草案をまとめた。
欧州主導で採用を進めている国際財務報告基準(IFRS)との共通化の一環。これまで簿外にある年金債務が表面化し、投資家にとっては決算の透明性が向上するメリットがあるが、自己資本に比べて積み立て不足額が大きい企業にとっては打撃となりそうだ。
変更で債務超過に陥る心配がある企業も
委員会は企業や会計士らの意見を聞いた上で、今年後半に最終案を決定、12年3月期決算から適用する方針だ。
企業年金は、従業員と企業が拠出した資金を元手に株式や債券などを運用し、将来の年金支払いのため蓄えている。しかし、最近は株価低迷や超低金利で運用環境が悪化。現役社員が減る一方で、OBは増えることもあり将来の年金の給付に必要な蓄えができない「積み立て不足」を抱える企業が増加した。
積み立て不足は、企業が営業費用などとして穴埋めするが、現行の会計基準は10~15年かけて分割処理する仕組み。例えば300億円の不足額が生じた場合、初年度は30億円分をBS上の負債として処理し、残りの270億円分はBSに反映されない「簿外債務」となる。
公開素案では、企業に不足額を一括してBS上の負債に反映するよう求めた。負債が増える分、自己資本は減少するため、財務基盤が弱い企業に与える影響は大きい。債務超過に陥る事態すら懸念される企業もあるようで、会計基準の変更をにらみ、企業年金の減額などで負担軽減を図るケースも増えている。
「確定拠出型」への移行が加速する可能性
例えば、09年3月末に簿外の積み立て不足額が自己資本の5倍に達したコロムビアミュージックエンタテインメントは、09年9月、企業年金を受給しているOBの半数超に対し、一時金を支払う代わりにその後の給付を打ち切った。近畿日本ツーリストも、企業年金の給付額を引き下げる意向だ。
大和総研によると、上場企業278社の09年3月末の年金積立不足は約21.5兆だが、このうち8.5兆円が簿外債務。その後の株価回復などで、簿外債務は改善している模様だが、リストラで減少した現役社員が、団塊世代など大量のOBを支える構図が変わらない限り、積み立て不足が生じやすい環境は続く。
企業の多くは、運用環境が悪化しても保証利回り通りの企業年金を支払う「確定給付型」を残している。会計基準の変更で、運用成績次第で給付額が変わる「確定拠出型」への移行や、確定給付型の給付額を引き下げる動きが加速する可能性は高い。日本航空の企業年金減額問題で注目を集めた年金の積み立て不足だが、日航のような破たん企業だけでなく、一般の企業も年金減額の懸念は他人事ではなくなっている。