日本企業の海外向け原子力発電の受注が苦戦していることを受けて、政府は官民が一体となった「ALL JAPAN」の新会社の設立に、本格的に乗り出した。
これまでは日立製作所や東芝などのメーカー主導で受注競争に参戦してきたが、2009年12月のアラブ首長国連邦(UAE)、10年2月のベトナムの第1期工事の受注競争に立て続けに敗れた。フランスや韓国、ロシアが国を挙げての受注体制を敷いており、激しさを増す国家間競争に、日本も巻き返しを図る。
原子力発電「ルネサンス」といわれるほど再評価
発電過程でCO2を排出しない原子力発電は、地球温暖化防止策として欧米を中心に「原子力ルネサンス」といわれるほど再評価されている。さらに、経済成長が著しい中国やインドなどの新興国では電力不足に対応するため、発電所の建設が活発になってきた。
経済産業省によると、計画中の原発は約30にも上り、なかでも東南アジアや中東では具体的に進展している。受注額にすると、UAEのケースで約3兆6000億円、ベトナムの第1期工事で約7500億円規模の一大プロジェクトということもあって、国際的な受注競争が激しくなっている。
そうした中で、日本の原子炉メーカーは東芝が米ウエスティングハウスを買収。日立製作所が米ゼネラル・エレクトロニック(GE)と原子力分野で合弁会社を設立、三菱重工業がフランスのアレバと業務提携するなどで競争力を高めてきた。
ところが、09年12月のUAEの原発プロジェクトでは、李明博大統領の強力な「後押し」もあって、日立・GEの日米連合が韓国電力公社を中心とする韓国連合に敗れた。
韓国は2030年までに80基の原発を輸出目標とする国家戦略を策定。国を挙げてのバックアップ体制を敷いていて、UAEに続き、ヨルダンやトルコなどの受注獲得も狙っている。
経産省は「フランスもEDF(電力公社)やアレバ(原子力産業企業の持ち株会社)が取りまとめ役を務めるなど、国の関与は大きい。日本も国が前面に立ってリーダーシップを発揮することが求められている」という。
ロシアはベトナムに軍事協力約束して受注?
UAEで韓国に敗れた日立製作所は、「原発プロジェクトは、発電所の建設以外にもより広範囲での協力を求められる。メーカー同士の連携は必要になる」と、反省の弁を口にする。
このように、原発を新規導入する国では、発電所の建設から安全運転や保守・管理のノウハウ、人材育成など、メーカー単体では応えられない要求も少なくない。場合によっては外交がらみの、政府ベースで幅広く協力を求めてくるケースもある。
たとえば、ロシアの国営原子力企業のロスアトムに敗れたベトナムの第1期工事では、ロシアがベトナムに対して軍事協力を約束したことが受注に結びついたとも伝えられている。
ベトナムの第2期工事をめぐっては現在、フランスと激しい争いを繰り広げていて、鳩山首相がグエン・タン・ズン首相に親書を送ることを明らかにするなどトップセールスに乗り出したところ。
新会社について経産省は、「UAEの教訓を生かしたい」と話し、原発の運転や保守・管理のノウハウをもつ東京電力や関西電力など電力事業者を中心に協力を求める考え。「出資者や資本規模など、まだ決まっていないが、国際的な受注競争が激しくなる中でゆっくり構えているわけにはいかない。できるだけ早くに発足したい」と意欲をみせる。