「わずかな誤りのために本が抹消されるのは遺憾」
しかしこのような出版停止の動きに反発したのが、キャメロン監督だ。出版停止が報じられた3月上旬、出版エージェントなどにペルグリーノ氏を擁護するメッセージを記したメールを送ったのだ。キャメロン監督は、ペルグルリーノ氏のことを「真実を追求する人物」と評価したうえで、
「歴史的重要性をもつ資料であるこの本の存在が、信憑性を欠くとされる情報源から生じたわずかな誤りのために抹消され、既に起こりつつある情報の拡大が阻止されるのであれば、極めて遺憾といわざるをえない」
とヘンリーホルト社の対応を批判。
「偽証を指摘されて問題となっている情報源については、この件の信憑性を貶めるために念入りに仕立てられた罠であることは明らかだ」
とペルグリーノ氏を擁護する姿勢を強調した。キャメロン監督は8歳のときに米ソの核戦争が間近に迫る「キューバ危機」を経験しているが、そのとき「世界の終わりがくるかもしれない」という原爆の恐怖を感じたという。原爆をテーマにした映画への意欲も、その原体験がきっかけになっている。メールのなかでも、
「私は何年も前から、広島と長崎で行われた原爆投下についての映画を撮りたいと考えてきた。現在はまだ脚本の用意がなく、具体的な製作予定が確定しているわけではないが、その意志になんら変わるところはない」
と並々ならぬ決意を示している。
「ザ・ラスト・トレイン・フロム・ヒロシマ」の日本語化権を仲介した著作権代理店「アウルズ・エージェンシー」の田内万里夫さんは、
「広島と長崎への原爆投下はアメリカではタブーといえる問題で、アマゾンの書評欄を見ても、神経質な反応が出ているということが感じられる。そんなアメリカの作家が原爆を正面から扱っているという点で、『ザ・ラスト・トレイン・フロム・ヒロシマ』は歴史をいろんな角度から振り返るきっかけとなる貴重な本だと思う」
と話している。