「アバター」や「タイタニック」で知られる映画界の巨匠、ジェームズ・キャメロン監督は広島と長崎の「原爆」をテーマにした映画を製作することを表明しているが、原作の書籍が出版停止に追い込まれる騒ぎになっている。ノンフィクションをうたう同書の記述にウソが含まれているのではないかという指摘があったためだ。
しかし「少年時代のキューバ危機で、原爆への恐怖を感じた」というキャメロン監督は映画化の意志に変わりがないことを明らかにするとともに、「歴史的重要性をもつこの本が、わずかな誤りのために抹消されるのは遺憾だ」と出版社を批判している。
原作に「捏造疑惑」が浮上
問題の本は、2010年1月に米ヘンリーホルト社から出版された「ザ・ラスト・トレイン・フロム・ヒロシマ(広島からの最終列車)」。「タイタニック」などのキャメロン作品にアドバイザーとして参加した経験をもつ作家のチャールズ・ペルグリーノ氏が、終戦間際の広島と長崎で「二重被爆」に遭った山口彊(つとむ)さんらに取材し、数十人の原爆体験者の証言をもとにした歴史ノンフィクションにまとめ上げた。
その内容に感銘をうけたキャメロン監督は同書の映画化に向けた優先権を取得。09年12月下旬に最新作「アバター」のPRのために来日した際には、長崎市内の病院に入院していた山口さんを訪ね、「あなたのような稀有な経験をした人を、後世、人類に伝えるために来ました」と語りかけ、固い握手を交わしたという。約2週間後、山口さんは93歳で亡くなった。
ところが「ザ・ラスト・トレイン・フロム・ヒロシマ」が米国で刊行されると、内容の一部が史実と異なるのではないかと疑問が投げかけられた。米紙ニューヨークタイムズによると、広島に原爆が投下されたときに米軍の写真撮影機に搭乗していたという元米兵の証言が捏造だというのだ。
同書には、体調を崩した隊員に代わって撮影機に乗っていたという元米兵(08年死亡)が登場し、原爆で破壊された広島の様子を証言していたが、この元米兵が原爆投下の飛行に参加した記録がないことが分かったと、ニューヨークタイムズの2月20日付け記事は報じた。
さらにAP通信は、登場人物の一部が実在しないのではないかと疑義を提示。歴史家や元米兵からも反論の声があがった。これらを受け、版元のヘンリーホルト社は「ザ・ラスト・トレイン・フロム・ヒロシマ」の出版停止を決めた。