リコール発覚で所有車の価格が下落したとして、米国民のトヨタ車オーナー800~1000万人がトヨタ相手に集団訴訟を起こした、と報じられている。日本では聞いたことのない訴訟規模だが、どうしてそんなことが可能なのか。
1000万人と言えば、アメリカ合衆国の人口約3億人の3%強にも当たる。そんな人数のトヨタ車オーナーが訴訟を起こしたと報じたのは、仏AFP通信社の2010年3月11日付ニュースだ。
賠償額は全体で最大2.7兆円にも上る可能性
その日本語版サイト記事によると、オーナー1人当たり500~1000ドル(約4万5000~9万円)の賠償を求めており、全体で最大300億ドル(2.7兆円)にも上る可能性があるというのだ。
訴訟代理人は、たばこ会社などとの裁判経験もある敏腕弁護士というティム・ハワード氏。トヨタが長年問題を隠し、オーナーを欺いたとして、3倍賠償制度の適用を求めている。訴訟については、「自動車業界の集団訴訟としては過去最大になるだろう」と豪語しているという。
800~1000万人という数字は、米国内でトヨタ車オーナーがそのぐらいいると報じられており、報道をもとにしたらしい。
人口の3%強が参加する訴訟などは、本当にあるのか。
司法関係者によると、こうした集団訴訟はアメリカでは「クラスアクション」と呼ばれている。ある一定の被害者集団をクラスとして、その代表者がアクションすなわち訴訟を起こすということだ。
「クラスの代表は、1人以上であればよいことになっています。いったん判決や和解が出れば、被害者が後から名乗り出ても、賠償金や和解金の支払いを求めることができます。原告側が新聞に広告を出して、募集することもよくありますね。ただ、該当の時期に購入したなどという証拠書類が必要になりますが」
日本では、裁判中に被害者が名乗り出ないと賠償金が支払われない「選定当事者制」を取っている。クラスアクションについては、日弁連がそれを参考にした制度提言のため07年6月に米国訪問調査を行っただけで、まだその制度は実現していない。
判決にはいかず、ほとんどが和解
クラスアクションは、司法関係者によると、クラスが1、2万人でも可能だ。ただ、1000万人という数字は、理屈ではありうるが、実際は聞いたことがないという。
これで、被害者側が裁判に勝てば、トヨタからどんどんお金を取ることができるし、トヨタ側にすれば、莫大な損失を招きかねないことになる。
クラスアクションに詳しい大髙友一弁護士は、実情について次のように話す。
「実際は、判決にはいかず、ほとんど当事者同士が和解しています。被告は、負ければとんでもない賠償金が課せられる可能性がありますし、原告は、訴訟費用などをかけても一銭も取れないリスクがあるからです。つまり、お互いに判決がどうなるか分からないので、和解するわけです」
敏腕弁護士というハワード氏については、それほど知名度はないようで、大髙弁護士はこう言う。
「訴訟に勝つと、弁護士に大金が入るんですよ。1人1000ドルとしても、その2割の手数料を取れば、莫大な報酬になります。だから、クラスアクションを専門にしている弁護士は、アメリカではたくさんいるんですよ」
とはいえ、トヨタにとっては、見通しは必ずしも甘くはないようだ。
同社は2010年2月4日の決算発表では、リコール問題が発覚してから3月末までに世界で約10万台販売が減り、損失は20億ドル(1700~1800億円)と推定していた。
ところが、米ウォール・ストリート・ジャーナル紙の3月10日付日本版サイト記事によると、修理や訴訟対策、販促活動などの関連費用が今後1年間で50億ドル(4500億円)超かかるとのアナリスト予測を明らかにしている。また、米マイアミ・ヘラルド紙の9日付記事によると、米国内で89件以上の個別訴訟があり、30億ドル(2700億円)以上を支払う可能性があるというのだ。
こうした個別訴訟での和解については、大髙弁護士は、「見通しは読めませんね」と指摘する。
トヨタ自動車の広報課では、「個別の訴訟については、コメントを差し控えさせて下さい」と話している。