千葉県の第三セクター「いすみ鉄道」が運転士の公募を始めた。訓練費用700万円は応募者の自己負担だ。経営再建中の同鉄道には、定年を過ぎた運転士が多いのに、新人運転士の育成が金銭面で難しい。いわば苦肉の策というわけだ。発表初日に10件以上の問い合わせがあったというが、はたして志望者は現れるのか。
訓練は1年半から2年で時給は728円
「いすみ鉄道」は千葉県いすみ市の大原駅から夷隅郡大多喜町の上総中野駅間を結ぶ26.8キロメートルで、14駅ある。1988年に JR木原線廃止にともない、第三セクターによる運営に変わった。社員は30人。ディーゼル車によるワンマン運転を行っている。経営再建中で、再建が不可能と判断された場合、早ければ12年度中にも廃線になる。
運転士の養成費用700万円を自腹にする鉄道会社は全国初。運転資格を取得後は、週に1、2日勤務の契約嘱託乗務員として採用する。応募の年齢制限はないが、取得後の勤務を考えれば上限は50代になる模様。同鉄道内の訓練所で1年半から2年をかけディーゼル列車の運転資格を取得。訓練期間中は千葉県の最低賃金(時給728円)を支給する。サラリーマンが「兼業」で訓練を受けるのは不可能で、訓練期間はこれに専念しなければならない。募集人数は「若干名」としている。「運転士になりたかった少年時代の夢をかなえませんか」というキャッチフレーズで募集しているが、費用は訓練開始前に一括で払わなければならない。
同鉄道によれば、運転士はJRから派遣してもらっていたが、ディーゼル車の路線が少なくなっていることもあり、JRは運転士の養成をやめている。独自で養成しようにも資金がない。運転士の高齢化も進み、定年をとっくに過ぎている人にお願いして続けてもらっている状況。そんな中、苦肉の策として考えたのが「自腹での運転免許取得」だった。幸い訓練施設を同鉄道は持っていて、運転士達が「真摯に育て上げる」としている。
「 当校で応募する生徒はいないと思います」
応募は運転士を目指す高校卒業生や大学の新卒でもかまわないが、700万円と高額のため、社会的に成功し時間とお金に余裕のある人が応募してくるのではないか、と同鉄道では見ている。
「首都圏に3500万人住んでいますので、数人くらいは高額な費用をかけてでも運転免許を取りたい、取得後は電車を運転したい、という人がいるのではないか、と期待をかけ募集を行うことにしました」
と同鉄道は打ち明ける。募集を開始したのは10年3月4日で、初日に10件を超える問い合わせがあった。ただし、中には「高額すぎる」など、この企画を批判する問い合わせもあったという。
日本で唯一「鉄道」の名前が付いている昭和鉄道高校に話を聞いてみたところ、いずみ鉄道が提示した700万円が妥当な額かどうかわからないが、鉄道各社が社員を運転士として養成するためにかけている費用は、給与を含め、およそ1千万ほどだという。また、鉄道会社によって異なるが、運転士になるための道筋は、駅勤務を経て車掌、そして運転士というのが一般的なコースで、最短でも入社してから4、5年かかるそうだ。ただし、運転士を目指しても誰でもなれるものではなく、厳しい運転適性検査や、視力や視野などの医学検査があり、800時間もの運転に関わる訓練を受けなければならない。
「一般の鉄道会社に入れば運転士になるための費用や訓練は会社持ちですし、700万円という高額な費用を払うとなると、当校で応募する生徒はいないと思います」
と話している。