「株式上場前に投資すれば、必ず儲かる」といって未公開株を売りつけ、投資家との間でトラブルになる例が急増している。電話で勧誘したり、ダイレクトメール(DM)を送りつけたりして、ATMで振り込ませるという。「振り込め詐欺」の新たな手口ともいえるが、なかには関東財務局の印章を偽造して押印した書類を投資家に見せて信用させるといった巧妙なものもある。
投資家を安心させるため「公的機関を装う」
未公開株のトラブルは、2006年度をピークにいったん減少したが、最近再び増加傾向にある。2009年度に、国民生活センターに寄せられた未公開株に関する相談件数は、3363件(2010年1月12日現在)で、すでに08年度を超えている。
また、金融庁の金融サービス利用者相談室への相談件数は09年10~12月に603件に上り、これは全体の投資相談の17%にあたる。さらに証券取引監視等委員会に寄せられた情報件数は、09年4月からの10か月で332件だった。月ベースでみると、09年11月23件、12月は24件だったのが、10年1月には41件に増えた。
急増の理由について、ある証券関係者は「取締りの強化などで、オレオレ詐欺や年金業者を装った振り込め詐欺が沈静化してきた。それに代わる手口だろう」と見る。
被害者の多くは60歳以上の高齢者で、電話による勧誘販売に引っかかるケースが6割を超す。訪問販売は2割弱、DMなどの通信販売が1割を占める。いかにも成長しそうな、「バイオテクノロジー」や「エコロジー」、「エネルギー」などを連想させる銘柄を持ち出して誘う。
前出の証券関係者は、「高齢者がターゲットになっているが、なかでも投資経験のある人が狙われている。かつての、株式の新規公開は必ず儲かるといった神話をいまだに信じている人は注意したほうがいい」と警鐘を鳴らす。
騙しの手口は巧妙だ。勧誘業者や発行企業などを複数の人物が演じる「劇場型」や、投資家を安心させる「公的機関を装う」手口は、一連の振り込め詐欺と変わらない。「未公開株の被害を調査している」などと言って近づき、「その業者は大丈夫」と言って安心させて、振り込ませる。勧誘業者と公的機関を名乗る業者が結託して騙すケースも多い。
「過去の被害を全額回復できる」とさらに騙す
さらに最近は、「A社の未公開株を買いたいのだが、事情があって買えないので代わりに買ってほしい」などと持ちかけて、謝礼や高値での買い取りを約束する「代理購入型」や、「過去の被害を全額回復できるが、そのためにはB社の未公開株を購入してもらいたい」などと誘って未公開株を追加購入させる「被害回復型」といった手口が横行している。
未公開株の販売は、株式の発行会社が自ら行うか、金融庁に登録している金融商品取引業者しかできない。未公開株を勧誘してきた業者が金融商品取引業者か否かを調べれば、違法な勧誘かどうかわかるが、最近は自らが発行会社となって募集する形をとっていて、詐欺行為と判断しにくくなっている。金融庁は「悪質になっている」という。
被害者は実際に株式が上場されないことがわかってから騙されたのに気づくケースがほとんどで、被害の発覚まで時間が経ってしまっていることもあって、振り込め詐欺のような取引口座の凍結といった対策では、それほど効果が出ないこともある。
日本証券業協会は現在、未公開株の被害者への相談に適切なアドバイスができるよう、対応マニュアルを作成中。3月にも配布するほか、ポスターなどで注意を呼びかけていく。