「本当にシロウトだから論評する資格などない。が、金妍児(キム・ヨナ)の絶対的な強さだけはわかった」。長野五輪スピードスケートの金メダリスト・清水宏保さんはコラムで、バンクーバー五輪の女子フィギュアスケート・ショートプログラムを見た感想をこうつづった。日本時間の2010年2月26日に行われるフリーで、マオはヨナを逆転できるか。
女子フィギュア・ショートプログラムは日本時間2月24日(現地時間23日)、カナダ・バンクーバーのパシフィック・コロシアムで行われた。日本の浅田真央選手が難易度の高いトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)を決めた一方で、ライバルのキム・ヨナ選手(韓国)は芸術性の高いスケーティングで対抗し、観客をわかせた。
「キムヨナすげ。。ズキューンされちゃいます」
現地の会場では元ライブドア社長の堀江貴文さんも観戦し、
「真央ちゃん完璧な演技!」
「キムヨナすげ。。ズキューンされちゃいます」
といった「つぶやき」をツイッターに投稿していた。同じ年、同じ月に生まれた19歳の対決は甲乙つけがたく見えた。浅田選手は73.78という高評価だったものの、世界歴代最高得点を叩き出したキム選手に4.72差をつけられた。
思った以上に点数が開いたことについて、ネットでは「キム・ヨナの評価が甘すぎる」という不満の声もあがった。ヤフーの意識調査コーナーが「浅田真央とキム・ヨナの採点に納得?」というアンケートを実施したところ、75%が「納得できない」と答えた。ライブドアでも同様の調査が行われたが、こちらでは「納得できない」が78%だった。
だが、競技はまだ前半を終えたところで、後半戦のフリーが残っている。キム選手がショートプログラムに強い「先行逃げ切り型」なのに対して、浅田選手はフリーに強い「追い上げ型」。2007年の世界選手権では、浅田選手がキム選手につけられた10点以上の差をフリーで逆転したという実績もある。そんなことから「真央ちゃんが金メダルをとる可能性は十分」と期待する声も多い。
浅田選手自身もショートプログラム後の会見で、
「いつもはショートプログラムで10点近く離されているので、それに比べればうれしい。やっとキム・ヨナ選手に近づけたなという感じがする。フリーはいつもどおりできればいい」
と話し、手応えを感じている様子だ。
「優劣、順位を考えれば、必ず雑念が入る」
もう一つ、スポーツ紙などで喧伝されているのが、「直近4大会ではショートプログラムで1位だった選手が優勝していない」というジンクスだ。前回トリノ五輪では、ショートプログラム1位のコーエン選手(米国)と同2位のスルツカヤ選手(ロシア)がフリーで転倒。ノーミスで滑り切った日本の荒川静香選手が金メダルを勝ち取った。
先に行われた男子フィギュアスケートでも、ショートプログラムで2位だったライサチェック選手(米国)が同1位のプルシェンコ選手(ロシア)をフリーで逆転して王座についている。ジンクスに頼るのは非科学的にみえるが、「追う者」のほうが精神的に気楽なので普段の実力を発揮しやすいともいえる。
キム選手の肩にかかるプレッシャーの大きさを指摘するのは、4年前に逆転劇を演じた荒川さんだ。
「浅田選手は選手村を楽しむなど余裕もあり、精神的な勢いがあるが、キム・ヨナ選手は韓国の期待、世界選手権女王の実績などすべての面で追われる立場で、背負うものの大きさが違う。キム・ヨナ選手はむしろ、この点差を小さいと感じているのでは」
と読売新聞のコラムで記し、精神面で浅田選手が有利と分析している。ショートプログラムでは「キム・ヨナの絶対的な強さ」を感じたという清水宏保さんも、
「浅田真央に逆転のチャンスがないのか、といえばそんなことはないと思う」
と朝日新聞のコラムに書いている。清水さんが考える金メダルのカギは、やはりメンタルの部分だ。
「フィギュアは元々、人々に見てもらうスポーツ。アーティストが舞台に上がって観衆に感謝しながら最高のパフォーマンスを見せるような感覚を持ってほしい。優劣、順位を考えれば、必ず雑念が入る」
と書き、「優劣を考えず滑ること」が重要だとアドバイスしている。