「優劣、順位を考えれば、必ず雑念が入る」
もう一つ、スポーツ紙などで喧伝されているのが、「直近4大会ではショートプログラムで1位だった選手が優勝していない」というジンクスだ。前回トリノ五輪では、ショートプログラム1位のコーエン選手(米国)と同2位のスルツカヤ選手(ロシア)がフリーで転倒。ノーミスで滑り切った日本の荒川静香選手が金メダルを勝ち取った。
先に行われた男子フィギュアスケートでも、ショートプログラムで2位だったライサチェック選手(米国)が同1位のプルシェンコ選手(ロシア)をフリーで逆転して王座についている。ジンクスに頼るのは非科学的にみえるが、「追う者」のほうが精神的に気楽なので普段の実力を発揮しやすいともいえる。
キム選手の肩にかかるプレッシャーの大きさを指摘するのは、4年前に逆転劇を演じた荒川さんだ。
「浅田選手は選手村を楽しむなど余裕もあり、精神的な勢いがあるが、キム・ヨナ選手は韓国の期待、世界選手権女王の実績などすべての面で追われる立場で、背負うものの大きさが違う。キム・ヨナ選手はむしろ、この点差を小さいと感じているのでは」
と読売新聞のコラムで記し、精神面で浅田選手が有利と分析している。ショートプログラムでは「キム・ヨナの絶対的な強さ」を感じたという清水宏保さんも、
「浅田真央に逆転のチャンスがないのか、といえばそんなことはないと思う」
と朝日新聞のコラムに書いている。清水さんが考える金メダルのカギは、やはりメンタルの部分だ。
「フィギュアは元々、人々に見てもらうスポーツ。アーティストが舞台に上がって観衆に感謝しながら最高のパフォーマンスを見せるような感覚を持ってほしい。優劣、順位を考えれば、必ず雑念が入る」
と書き、「優劣を考えず滑ること」が重要だとアドバイスしている。