トヨタ自動車の大量リコール(回収・無償修理)をめぐり、急浮上しているのが、「急加速・急発進が、電子制御装置(ETCS)に起因しているのではないか」という疑念だ。公聴会では、自動車の専門家が、ETCSが正しく稼働しない可能性を指摘し、急加速を体験した女性が「強欲なトヨタは恥を知れ」と涙ながらに発言。ところが、ここに来て、「女性が乗っていた車は、(女性が売却した)その後もトラブルなく走っている」という報道もあり、今後もETCSをめぐる議論は過熱しそうだ。
トヨタ側が一貫して「欠陥はない」と主張してきたETCSだが、2010年2月23日に米下院エネルギー・商業委員会で行われた公聴会では、これに対する疑問が噴出した。
車両を売却した後も、問題なく走行を続けている
ETCSの欠陥が急加速につながったのではないかと疑っている一人が、公聴会で証言した、米南部テネシー州在住のロンダ・スミスさんだ。
スミスさんは、06年10月、高級車「レクサスES350」で自宅近くの高速道路を走っていたところ、ブレーキが効かなくなり、時速160キロまで急加速。その時の様子を、
「強欲なトヨタよ、職務を果たさなかった運輸省道路交通安全局(NHTSA)よ、恥を知りなさい」
などと涙ながらに振り返った。06年の不具合の時点では、NHTSAの調査では「床のゴムマットにアクセルペダルが引っかかったのが原因」と結論づけているが、スミス夫妻は、異常の直前に速度制御装置の表示が点滅したことを理由に「フロアマットの問題ではない」と反発を続けている。
ところが、「フロアマット説」を示唆するかような報道もある。米ウォールストリート・ジャーナル紙は2月24日、NHTSA広報担当者の話として、スミスさんが車両を売却した後も、問題なく走行を続けているという話を伝えている。記事によると、スミスさんは、「死ぬかと思った」として、事故後に車両を売却。この時点での走行距離は3000マイル(4800キロ)未満だったが、その後の複数の所有者は、走行距離が27000マイル(43000キロ)に達した現在でも、何のトラブルもなく走らせているという。
急発進・急加速は「トヨタ車が飛び抜けた数字だという訳ではない」
コメント欄には、
「多分(車両に)問題はなかった」
という、トヨタ側を擁護する声がある一方で、
「車が危ないと思ったのならば、何故売ったのか」
「車を売った相手に、議会で証言したのと同じことを言えるのか」
と、スミスさんを批判する声も目立つ。
だが、ETCSの構造面での欠陥を指摘する声もある。
前出の2月23日の公聴会では、証人として出席した南イリノイ大学のデービッド・ギルバート教授(自動車技術学)が、
「『迷走した信号(stray signal)』が、安全装置を作動させたり、車両のコンピューターシステムに痕跡を残すことなく、システムを通過してしまうというシナリオを3時間半で再現できた」
と証言。この現象が必ずしも急加速につながる訳ではないことを強調しながらも、
「他の問題が起こっても、検知されなくなっている可能性がある」
と、システムの安全面に疑問を呈している。
国内にも、この問題は飛び火しており、前原誠司国交相は、2月24日、07年から09年までの3年間でトヨタ車の急発進・急加速・暴走について38件の苦情が寄せられていたことが明らかにしている。前原氏は「トヨタ車が飛び抜けた数字だという訳ではない」としながらも、「慎重に、その中身を精査する」と、調査を進める考えを明らかにした。
前出のギルバート教授の指摘については、2月24日に監視・政府改革委員会の公聴会に出席した豊田章男社長は
「(再現)テストの方法を教えていただきたい」
と述べ、米国側と情報交換しながら調査を進める意向だ。