事業仕分けの余波で保険適用外になるかもしれない、と騒ぎになった「漢方薬」。しかし、一部から猛反発を受けたこともあり、「引き続き適用」が決まったことが明らかになった。最近では鳩山首相が西洋医学と漢方などの伝統医学を組み合わせる「統合医療」を進めたいと話したこともあり、一転して漢方薬市場に追い風が吹いている。
2009年11月11日に行われた内閣府の行政刷新会議による事業仕分けで、湿布やうがい薬などの「市販品類似薬」を「保険適用外にするべきではないか」という意見が出て、議論になった。市販品類似薬には漢方薬も含まれることから、大手メーカーや業界団体は猛反対していた。
「政府として漢方薬の保険適用を外すと決めたのではない」
漢方薬の保険適用について、厚生労働省保険局医療課の担当者は、
「事業仕分けのワーキンググループで議論になっただけで、政府として漢方薬の保険適用を外すと決めたのではありません。やめていないものを継続すると決めることはない」
といい、事実上継続が決まったことを認めた。
一方、日本東洋医学会(JSOM)は「漢方製剤の保険外しに反対する」という声明を09年11月24日に出し、署名運動を始めた。12月16日時点で92万4808人の署名が集まり、同日厚生労働大臣に提出。年末に10年度政府予算案の骨組みが固まったのを受けて、JSOMは09年12月22日、「漢方薬の保険適用の維持が本決まりとなった」とホームページで明らかにした。
メーカー最大手のツムラも10年1月8日、「医療用漢方薬は引き続き保険適用されることになりました」とホームページで報告している。
医薬品全体に占める割合はまだ2%未満
漢方薬の市場規模は生産金額ベースで1131億円(07年厚労省調べ)だ。病院で処方される医療用とドラッグストアなどで売られている一般用(OTC)があり、医療用が918億円で、OTCが213億円。
漢方薬が医薬品全体に占める割合は1.8%と小さいが、2015年に国内漢方薬市場が07年の2倍の2000億円を超え、シェアが3.0%になると野村総合研究所は推測している。根拠はこうだ。
09年6月に改正薬事法が施行され、薬剤師がいなくても登録販売者がいればコンビニエンスストアやスーパーマーケットなどでも漢方薬(OTC)を販売できるようになった。消費者との接点が増えたことで利用増が期待できそうだ、というのだ。
こんなデータもある。野村総研が09年9月に行った漢方薬の使用状況に関する調査によると、利用していると答えた人は29%、過去に利用した人は33%、利用したことがない人は38%となった。一方、今後の利用意向を聞くと、現利用者の94%、過去利用者の65%、未利用者の52%が「利用したい」と答えた。また、漢方薬は年齢が高くなるほど利用する傾向があることから、高齢化社会では利用増加が期待できる、と見ている。
「ウコン」など漢方に用いられる素材を使った飲料や食品が登場していることも、漢方薬の利用増につながる可能性もある。ハウス食品がドリンク剤などを展開する「ウコンの力」は、08年度の売上高が販売ベースで250億円だった。
医療用漢方薬も拡大が見込まれている。15年に世界保健機関(WHO)の国際疾病分類(ICD)が改正される見通しで、初めて漢方薬が登録されることになりそうだ。登録されていないと医師はどのような症状の時に利用すればいいかわかりにくく、統計情報を取れないなどの問題があった。
鳩山由紀夫首相が10年1月29日に所信表明演説で西洋医療と漢方など伝統医療を組み合わせる「統合医療」を進めたいとの考えを示したことも、「追い風となって、いい方向(漢方薬市場の拡大)に進むのではないか」とJSOMの担当者は期待している。