支持率低下に歯止めがかからない鳩山内閣だが、閣僚の中で、前原誠司国土交通相の人気上昇が目立っている。TBS系列のJNNの世論調査(2010年2月12、13日)では、鳩山内閣の支持率が前回(2月6、7日)より1.5ポイント下がって44.4%、不支持率が同1.9ポイント上昇して55%になる中、「今の内閣で期待する大臣」で、前原国交相が09年11月調査比3ポイントアップの18%でトップに躍り出た。
2位は新任の枝野幸男行政刷新相(11%)。前回トップだった長妻昭厚生労働相が同14ポイント減の10ポイントで3位(菅直人副総理と同率)に落ちたのとは対照的だ。
「住民感情をいたずらに逆なでし、説得を難しくした」
産経新聞の世論調査(2月6、7日実施)の「次期首相にふさわしい政治家」でも、舛添要一前厚労相(14.5%)には及ばないものの、前原氏は前回調査比2.4ポイントアップの9.8%に躍進し、2位の鳩山首相(2.0ポイント減の10.1%)に肉薄した。同紙は「小沢一郎民主党幹事長の政治資金問題に関し、小沢氏に厳しい態度で臨んだ」ことが期待度上昇の要因と分析する。
確かに、各種世論調査でも国民の多数が小沢氏の説明不足を批判し、半数前後が幹事長辞任または議員辞職を求めているにもかかわらず、民主党内からなかなか批判の声が起こらない異常な状況の中で、表立った批判を控える岡田克也外相とは違い、前原氏は枝野氏らと並んで「けじめ」を求める発言を繰り返し、目立っている。
ただ、実際の政策では、経済界や官界から疑問符がつく行動や発言も少なくない。
最初に「ミソ」をつけたのが、就任してすぐに打ち出した八ツ場ダム(群馬県長野原町)の建設中止だ。民主党が掲げる「コンクリートから人へ」の象徴として喝采を浴びたのは事実だが、「マニフェストに書いてあるから」との説明は、長年、ダムの賛否に割れて最終的に建設・移転を受け入れた地元住民との長年の関係をまったく無視したもので、「住民感情をいたずらに逆なでし、説得を難しくした」(経済官庁幹部)というのが、行政関係者の一致した見方だ。
トヨタリコール問題で「顧客目線が欠けている」
破綻したJALの再建問題の迷走も記憶に新しい。「法的整理は考えていない」「法的整理を否定したことはない」と揺れ、そのたびに株式市場を右往左往させた。自身の親しい関係者を中心に構成した「タスクフォース」に再建計画を練らせようと、法的裏づけもなく独走した挙句、タスクフォースは解散、公的な産業再生支援機構の支援を受けることになった。このため、タスクフォースに資産査定などをさせた1カ月を無駄に空費し、「経営悪化を加速させた」(JAL関係者)との批判が上がった。しかも、タスクフォースは査定の実務などの経費が10億円程度かかったといわれる。前原氏の肝いりだったにもかかわらず、JALが負担することになり、この分も結果的にJALの負債を増やした。
トヨタ自動車のリコール問題でも、前原氏は会見で「顧客目線が欠けている」(2月5日)と語ったことに、「世論に便乗してカッコつけるより、国益を考えるべきだ」(経済団体関係者)との批判がある。ブレーキの効きの遅れを「運転者の感覚の問題」と会見で語るなどトヨタの認識の甘さがあったとはいえ、「米国では運輸長官が議会公聴会でトヨタ車の『運転をやめるように』と口を滑らせたように、官民挙げてのトヨタ叩き状態」(同)という中で、日本のトップメーカーをさらに追い詰めるような発言を閣僚がするのは問題だ、というわけだ。ちなみにトヨタ労組出身の直嶋正行経済産業相は、「今回は比較的速い判断。これを糧にユーザーの信頼を回復し、不信を買わない対応をしてほしい」(9日の会見)とトヨタをかばったのとは好対照だ。
政治とカネの問題で、視界がなかなか開けない鳩山政権。首相自身もさることながら、脇を固める閣僚の人気は内閣の大きな支えだが、政策遂行には危うさがつきまとう。