あらかじめ決められた価格で自社株購入できる権利「ストックオプション」(自社株購入権)をめぐり、国際金融大手の日本法人社員100人以上が、東京国税局などから多額の申告漏れを指摘されていたことが明らかになった。今回の指摘総額は約20億円。はからずも、その外資金融の高給ぶりの片鱗が明らかになった形だ。
申告漏れは2010年2月19日に朝日新聞が報じたもので、各紙もそれに続く形で報じた。
1人あたりの申告漏れ額は2000万円
各紙で報道された内容を総合すると、大人数の申告漏れを起こしたのは、「クレディ・スイス証券」(東京都港区)。社員100人以上が、07年頃までストックオプションを行使して株式を取得したが、日本の税務当局に給与所得として申告していなかった。その結果、国税局は計約20億円の申告漏れを指摘。追徴税は増額で約8億円にのぼるといい、大半は修正申告に応じたとみられる。
さらに、これとは別に、46歳の同社元部長がストックオプションで得た所得を隠し、約1億3000万円を脱税したとして、所得税法違反の容疑で東京地検に告発されたことも明らかになっている。
ここで注目されるのが、申告漏れが指摘された所得額の大きさだ。元部長が申告していなかった所得額は約3億5000万円で、他の社員100人についても、単純計算すると1人あたりの申告漏れ額は2000万円。数年間で自社株を2000万円購入出来るということが明らかになった形で、同社社員にそれなりの「財力」があることを思わぬ形で浮き彫りにしている。 ただし、1人で1~2億の申告漏れを指摘された社員もいる模様なので、所得額にはばらつきがある様子だ。
従業員の士気を高める意味合いもある
この背景について、J-CASTニュースでコラム「マネーの虎」を執筆中の枝川二郎さんは、
「外資系証券会社では非常に高額なボーナスを取る人もいて、通常の支払い方をした場合、多額の課税をされてしまうので、退職金として低税率で支払うケースも多いです。ストックオプションも、これと同様ですが、『株価が上がらないと、株を売っても儲からない。だから、その分働きなさい』という、従業員の士気を高める意味合いもあるんです」
と、多額の報酬をストックオプションで支払うことには、ある程度の合理性があるとの見方だ。また、今回の報道のありかたにも疑問を呈している。
「日本の源泉徴収制度のような、サラリーマンが自分で納税手続きをやらなくていい制度をとっているのは、国際的にも少数派です。確かにクレディ・スイスは社員の管理が甘いところはあるのですが、『納税は自分でやる』というのが世界標準。納税は個人の問題なので、今回の事態で同社が非難されるような風潮はおかしいと思います」
クレディ・スイスグループは世界50か国以上に拠点を持ち、従業員数は約4万7400人。09年には67億スイスフラン(5658億円)の純利益を計上している。