民主党、国民新党、社民党による連立政権発足以降、日本郵政グループや政策金融機関の復権が著しい。郵貯は1000万円の貯金の預け入れ限度額の大幅引き上げ、もしくは撤廃が濃厚だ。日本政策投資銀行の民営化に待ったをかける動きも、与党内で浮上。
小泉純一郎政権時代の「官から民へ」の流れを否定し、時計の針を戻そうとする動きが盛んだ。銀行などは「民業圧迫だ」として警戒感を強めている。
国際協力銀行を再び独立させる案も浮上
政府が2010年2月8日公表した「郵政改革素案」では、日本郵政に郵便や金融などを全国あまねく提供する「ユニバーサルサービス」の義務付けを盛り込んだ。その見返りの一つが、金融機能の強化による収益改善とされる。素案では、郵貯や生命保険の限度額の扱いは先送りしたが、3月の関連法案提出に向け、限度額の引き上げや撤廃を議論する方針だ。
一方、国民新党は1月26日、日本政策投資銀行など政策金融機関の幹部を集め、政投銀の民営化の是非について意見交換を行った。政投銀は小泉政権時代の政策金融改革で、08年に政府全額出資の株式会社となった後、5~7年かけて完全民営化するはずだった。
しかし、08年秋の金融危機で金融市場が混乱すると、政投銀は資金繰りに苦しむ企業への資金供給の役割を任され、09年6月には完全民営化を先延ばしすることが決定。ここに来て、国民新党のように民営化自体を考え直す動きすら出てきた。さらに政府内では、日本政策金融公庫の国際部門として統合された国際協力銀行(JBIC)を、再び独立させる案も浮上している。
一連の見直しは、小泉構造改革を否定する亀井静香金融・郵政担当相らが主導している。郵政民営化の見直しは、亀井氏が代表を務める国民新党の最優先課題。また、財政難に苦しむ現政権にとって、政策金融機関は「税金を直接使わずに資金を民間に流せる」(メガバンク幹部)有効なツールだ。民間のリスクを政府が間接的に引き受ける形だが、不良債権などの問題が顕在化しない限り、政府は懐を痛めずに、市中に資金を供給できる。
民間金融機関は早くもあきらめムード
こうした動きに、銀行など民間金融機関は「民業圧迫につながる」と警戒感を強めている。安心感のある郵貯の限度額が引き上げられれば、民間の預金が郵貯に流れかねず、全国銀行協会の永易克典会長は1月26日の定例会見で「完全民営化に向けてやってきたことに逆行する」と批判した。政府保証付きで低コストの資金を調達できる政投銀の存在感が増すことも、銀行にとっては脅威だ。
もっとも、民間金融機関も一枚岩にはなりにくい。全国に郵便局を持つ日本郵政は、金融商品の販売網として魅力で、関係を深めたい金融機関も多い。政投銀は1月に経営破たんした日本航空に対し、政府系ファンドの企業再生支援機構とともに6000億円を融資して再建を支える方針。メガバンクだけでは支えきれなかっただけに、銀行側も政投銀の肥大化を批判しにくい実態がある。民間金融機関には「返済猶予法(中小企業等金融円滑化法)のように、今回も亀井氏のペースで事態が進むのでは」(大手行幹部)と早くもあきらめムードが漂っている。