石川県の僧侶が開設したサイト「僧侶ネット」がユニークだ。僧侶が仏事にかかわる相談を受け付けたり、人生相談にものったりする。離れて暮らす高齢者の安否を確認する有料サービスも行うという。開設者は「僧侶がもっと近い存在になれば」と話している。
「僧侶ネット」は2010年1月18日に開設された。サイトを通じて、通夜・葬儀・葬式の相談や依頼、それに講演や法話を申し込むことができる。利用者は宗派や地域、依頼の目的を選んで、自分にあった僧侶を手軽に見つけることが可能だ。現在は9人の僧侶が登録しており、写真付きの人物紹介のページも整えられている。また、お布施の目安も掲載されている。開設者は2年前に父親を継いだ元サラリーマン
サイトの運営者は、石川県金沢市にある専徳寺の副住職・吉岡聡さん(47)。開設に至った経緯をこう説明する――。実は、吉岡さんはサラリーマンとして働き、10年間会社経営をしていた経歴の持ち主だ。今から2年前。それまで時折手伝いをしていた僧侶の仕事を本格的に始め、父親の跡を継ぐことになった。その際、僧侶の感覚が一般の社会とはずれていたことに驚いた。門徒があって成り立っている寺運営にあって、寺側から何かを働きかけることがほとんどなかったからだ。
付き合う門徒のほとんどは高齢者。その子どもの多くは首都圏で働いている。将来、寺の存続問題にもかかわることだ。そうした中で葬式も、葬儀社が取り仕切る機会が増え、僧侶の派遣会社などもあらわれた。吉岡さんは、僧侶との付き合いが少なくなり、僧侶を知らないために、相談することが難しくなっているのではないか、と考えた。それがサイトの開設につながった。サイトでは僧侶に直接依頼できるようにも工夫した。
「もう少し私たちの方からも積極的に関わっていこう、と。僧侶がもっと近い存在になればいいと思っています。もっとも、こちらから歩み寄っていかなかったので、相手も寄りつかないところがあったのかもしれませんが」
高齢者の安否確認サービスも行う
「僧侶ネット」ではほかに、離れて暮らす高齢者の安否を、僧侶が代わりに自宅訪問するサービスも行う。月3回の訪問で費用は4500円。依頼者にはメールでその様子を伝え、写真も添付して報告する。サービスの着想は前出、吉岡さん実体験に基づいている。門徒の自宅を訪問した際、子どもにも言えない話もしてくれた高齢者が多かったのだ。
「見知らぬ人が高齢者を訪問するのは、不安な思いがあると思います。また、子が電話しても本人は、強がってしまうところが意外にあります。その点、僧侶はざっくばらんに入っていけるというか、安心感があるのでしょう」
さらに、サイト内ではメールを通じて人生相談も積極的に受け付けている。今後はページをリニューアルし、人生相談や悩みの受け付けはとりわけ強化していきたい考えだ。「今は人との付き合いが薄くなっていて、孤立感が募っているようにも感じています。そこで一人じゃないよと伝えていきたい」と意気込んでいた。
こうした取り組みは珍しいのか――。宗派を越えて僧侶が集う組織「仏教情報センター」は1983年に立ち上がり、同様の相談を電話で受け付けている。事務局の担当者は「首都圏では核家族化で、葬儀の作法やお布施の金額がわからずにいる人が多かったのが組織されたきっかけ。今でもお布施の相談はとりわけ多い」と言う。たしかに一般の人にとって、お布施のことはわかりにくい。
都内に寺を構えるある住職は「最近は僧侶の派遣もあり、たしかにお布施学が不明瞭なところがあるかもしれません。利用者にとって、僧侶と直接、顔を見ながらやりとりできる仕組みは安心感があると思います」とする。
しかし、ネットを通じての依頼はまだあまりないようだ。