リコール問題が拡大する中で、トヨタ創業家の豊田章男社長(53)が会見などをしないことに疑問の声が出ている。トヨタでは、品質保証の問題のため担当副社長らが対応していると説明するが、これだけの騒ぎなら社長が出てくるべきとの指摘も多いのだ。こうした批判を受けて、2010年2月5日夜、品質問題についてようやく記者会見を開いた。
「社長になり代わって、私でご容赦願いたい」
トヨタ自動車の佐々木真一副社長は、豊田社長自らなぜ会見しないのかを問われて、こう釈明した。新型プリウスのブレーキ問題について、2日に記者会見したときのことだ。
トヨタは、品質保証担当者が対応と説明
理由について、佐々木副社長は、自らが品質保証担当で一番よく知っていることを挙げた。しかし、メディアからは、この対応ぶりについて異論が相次いでいる。
特に、論調が厳しいのが、外国メディアだ。
米通信社のブルームバーグは、5日付日本語版記事で、「トヨタ社長の顔見えぬ対応 リコール拡大『隠れている』印象」との見出しを掲げた。記事では、リコール問題で豊田社長が公に発言したのは、NHKの飛び込み取材に1月29日、不安を与えたことを謝罪したいと答えただけと指摘。そして、「今回の問題での対応は世界標準を満たしていない」とするアナリストのコメントを紹介している。
また、英ロイター通信社は、3日付日本語版サイトの記者ブログで、「トヨタ・ブランドの行く末」として、豊田社長が会見に出なかったことを取り上げている。投稿した同社記者は、トヨタの看板である品質への信頼が揺らぐ可能性があるとして、「企業のトップが、この状況をどのように切り開こうとしているのか、知りたいのは私だけではないと思うが、どうだろうか」と問いかけた。
09年6月にトップに立ってから、豊田社長は、メディアを避けているのではないかと繰り返し指摘されている。
車ニュースサイト「レスポンス」によると、高級車レクサス初のハイブリッド車が発表された09年7月14日、豊田社長の囲み取材はなく、「『現場に近い』といわれる社長がこの日は会場内で一番遠く感じた」という。これまでの定番だった社長とのツーショット撮影もなかったとしている。
豊田社長「説明したい」も時期不明
また、報道によると、2010年の正月にあった賀詞交換会では、豊田章男社長は、記者からリクエストのあった囲み取材に応じなかった。
豊田社長は、姿を見せたとしても、質疑応答がない場合が多いとも報じられている。また、単独インタビューがほとんどなく、会見も少ないと指摘されているようだ。
自動車業界に詳しいメディア関係者は、こんな裏話も披露する。
「深い経営の話を聞くため夜回り取材をしようとすると、トヨタの役員は、自宅で自由に受けるというスタンスでした。それが、豊田社長の場合は、基本的に夜回り取材を受けないと変わりました。また、公の場にも出てきませんね。株を持っている創業家の社長なので、発言の影響力を恐れているのかもしれません。本人が出ないように守りたいという会社の判断もあるでしょうね。しかし、大げさに反応してもおかしくないときなので、本来は、社長が矢面に立つべきなのではと思います」
豊田社長が露出しない背景には、メディア嫌いや引っ込み思案がある可能性も言われている。
トヨタの広報部では、リコール問題で会見しない理由については、品質保証の担当者が会社を代表してコメントしているからと説明する。それ以外の理由は、特にないという。
正月の賀詞交換会で囲み取材に応じなかったことについては、「関係者の皆さまにごあいさつすることを優先したからです」としている。
リコール問題について、豊田社長自身は、NHKの取材に対して、「できるだけ速やかにちゃんと分かりやすい言葉で説明したいと思っています」と答えている。そこで、それがいつになるか広報部に聞くと、「現段階では、把握していません。今後についても、その時々で判断することですので、何とも申し上げられません」とのことだった。
トヨタ自動車の豊田社長は2月5日夜、名古屋市内で記者会見し、一連の品質問題について陳謝するとともに、対応策について「できる限り早く対応したい」などと話した。