資金管理団体「陸山会」の土地取引をめぐって刑事告発されていた民主党の小沢一郎幹事長について、東京地検特捜部は不起訴処分とすることを決めた。小沢氏の元秘書ら3人は政治資金規正法違反で起訴されたが、大山鳴動して鼠一匹という感もある。なぜ小沢氏本人は「不起訴」となったのか。
検察内部で意見の対立あった可能性も
東京地検特捜部は2010年2月4日、小沢氏の秘書だった石川知裕衆院議員ら3人を政治資金規正法違反の罪で起訴した。陸山会が04年10月に東京都世田谷区の土地を約3億5000万円で購入したが、石川議員は、購入原資となった4億円の収入などを同年分の政治資金収支報告書に記入しなかった虚偽記載の罪に問われている。
東京地検は小沢氏の事務所などを家宅捜索したほか、10年1月に小沢氏本人の事情聴取を2度に渡って実施。元秘書だけでなく、小沢氏も立件される可能性が高いとの報道が週刊誌などで広がっていた。しかし検事総長や最高検などと協議した結果、東京地検は小沢氏については不起訴とすることを決めた。
不起訴処分となった理由について、TBSの情報番組「朝ズバッ!」に出演した宗像紀夫・元東京地検特捜部長は、
「検察では、証拠をある程度、得ているけれども、起訴して有罪を獲得するだけのものはないという判断だろう。政治家には『秘書の壁』があるが、本件も3人の秘書の供述が十分に得られていないようだ。たとえば、小沢さんから指示をうけたとか、小沢さんが十分に認識していたという供述が得られていないし、物証も十分でないということだ」
と推測する。そのうえで、検察内部で意見の対立があった可能性も口にした。
「重大な事件、特に国会議員がからむ事件の処分を決めるときは、特捜部だけで起訴・不起訴を決めない。検事総長以下、最高検や地検のトップクラスが集まった、いわゆる『御前会議』で、特捜部の報告を聞いて決める。地検は『これで証拠は十分だ。小沢さんを起訴できる』と言っているもしれないが、全体的な協議で『公判を維持するのが無理だ』となれば、起訴しないという方向になる」
有罪を獲得できる絶対の自信がなければ起訴しない
「公判を維持できるかどうか」というのが、一つのポイントだ。「精密司法」という言葉があるように、日本の検察は有罪を獲得できる絶対の自信がなければ起訴しない傾向がある。元検事の大澤孝征弁護士もテレビ朝日の情報番組「スーパーモーニング」で
「私は『120%有罪の見込みがなければ起訴するな』という指導を受けた。公判に行くといろいろなことから証拠の価値が減殺されるので、有罪を100%取るためには120%ぐらいの証拠がなければだめなんだということ。どうしてもそれに足りるだけの証拠がないということになれば、やむをえない」
と証拠の重要性を語った。
今回の事件で、小沢氏の関与を裏付ける証拠となりうるのは、(1)元秘書らの供述(2)小沢氏本人の供述(3)指示書やメールなどの物的証拠の3点といえるが、いずれも弱いと判断されたようだ。
元秘書らの供述については、「小沢氏が収支報告書への不記載について了承していた」と石川議員が供述したという一部報道もあったが、担当弁護士や事務所は「そのような供述はしていない」と否定している。また、小沢氏本人の供述についても、若狭勝・元東京地検特捜部副部長が
「2度目の事情聴取でも、特捜部の描いているような話は得ることができなかった。その時点で、不自然な点は多々あるけれど、起訴して有罪にいたるまでの証拠関係としては弱いという結論になった」(テレビ朝日「スーパーモーニング」)
と分析している。