東京から約1300キロ離れた小笠原諸島の海底火山で噴火が起き、大きな煙が確認された。この海底火山はたびたび噴火を繰り返しており、過去には何回か「新島」が姿を現している。仮に今回も島が出現したら、ひょっとしたら「領土拡大」ということになるのだろうか。
第3管区海上保安本部は2010年2月3日、南硫黄島から北北東約5キロの海域で、巡視船が海上から白い煙が上がっているのを確認した、と発表した。
35年ほど前も海底噴火で「新島」ができた
この海域は「福徳岡ノ場」と呼ばれ、海底火山の活動が活発な場所としても知られる。09年12月にも海水が黄緑色に変色しているのが確認されており、過去にも3回、火山活動で島が出現している。最後に島が確認されたのは1986年のことだ。このときは、一時期は長さ800メートル、幅200メートルの三日月型の陸地ができ、海面からの高さも約15メートルにまで成長した。「新島誕生か」との期待の声があがったものの、島はじょじょに波にさらわれて小さくなり、誕生から49日目で消滅が確認された。
今回のケースでも、早速「領土が増えるのでは」といった期待の声があがっているが、実は35年ほど前、海底噴火で「新島」ができたケースが存在する。
1973年6月、父島の西約130キロにある無人島「西之島」の東南東約600メートルにある海底火山が噴火し、7月には島が出現。12月には「西之島新島」と名付けられた。島は成長を続け、翌74年6月には旧島と接続。現在は両島が一体化した状態だ。
ここで気になるのが「島は誰のものになるのか」という点だが、実は、民法には「所有者のない不動産は、国庫に帰属する」との規定があり、出現した土地は「国有地」ということになる。
75年8月になって海上保安庁が島に上陸して測量作業を行っているのだが、朝日新聞は8月13日に「『新国土』詳しく調査」という見出しで調査の予定を報じる中で、
「政府機関による上陸はこれが初めてで、約30万平方メートルの『国有地』の姿が明らかにされる」
と、新たにできた土地を「国有地」と表現している。
「領有権を主張するには実際に支配することが必要」
なお、今回の噴火で新たに島ができた場合、「福徳岡ノ場」は南硫黄島から北北東約5キロで、領海の12海里(約22キロ)以内なので、日本の主権が及ぶのは確実だ。西之島新島の場合、海上保安庁が命名を発表し新たに海図に書き入れることで、事実上の「領有宣言」という形をとっている。
逆に、領海や200海里区域外の、公海上に島ができた際には、「発見しただけでは日本のものになる訳ではない」との見方もある。
有名なのが、フィリピンのミンダナオ島とインドネシアの間にある孤島「パルマス島」をめぐる争いだ。米国は「島を発見したスペインから、1898年のパリ条約で譲り受けた」と主張する一方、オランダは「オランダ東インド会社などを通じて実際に支配していた」と、双方が領有権を主張。20年以上外交交渉が続いたが、1928年になって、常設仲裁裁判所がオランダの言い分を認める形で紛争は決着した。このことから「発見するだけでは領有権を主張するには不十分で、実際に支配することが必要」との理解が一般的になっている。
1977年頃には、南硫黄島の南東約330キロにある「福神岡の場」の海底火山の存在がクローズアップされ、園田直官房長官(当時)が、国会の決算委員会で
「島の所有権というのは、一番最初に発見した国のものだとなっておりますので、この点については十分いろいろ配慮をして、他の国に先駆けられないように注意をいたしております」
と答弁している。