デフレ脱却に向け、政府が「日銀包囲網」を強めている。最右翼は藤井裕久・前財務相の後任に就いた菅直人・副総理兼財務・経済財政担当相だ。菅氏は2010年1月26日の参院予算委員会で、日銀の金融政策運営に対し「まだまだもっと、という気持ちが率直なところある」と発言、暗に一段の金融緩和圧力を促した。
さらに29日の経済演説でも金融政策への「期待」に言及した。09年11月の「デフレ宣言」をテコに日銀を追加緩和に追い込んだ菅氏の財務相就任は、日銀にとって政策運営の波乱材料になりそうだ。
菅氏の強硬姿勢は閣内でも際立つ
2010年1月29日の通常国会冒頭、鳩山由紀夫首相は施政方針演説で「特にデフレの克服に向け、日本銀行と一体となって、より強力かつ総合的な経済対策を進める」と述べ、デフレ対策に重点を置いた経済財政運営の方針を表明。菅財務相も財政演説で「日銀には、政府と緊密な情報交換ら連携を保ち、適切かつ機動的な金融政策の運営で経済を下支えするよう期待する」と述べ、景気が下ぶれした場合は迅速な金融緩和に踏み切るよう促した。
菅氏は09年11月20日に経済財政担当相として「デフレ宣言」を行った際も、「日銀にも協調していただく」と金融緩和を要請。前任の財務相の藤井裕久氏が日銀の独立性に一定の理解を示していたのに比べると、菅氏の強硬姿勢は閣内でも際立っていた。
今のところ、景気は持ち直し傾向を維持しているため、昨秋のように露骨に風圧を強める姿勢は控えているようだ。ただ、予算委では「政府・日銀で少なくとも方向性は一致している」との表現で、具体的な金融政策面ではなお満足していないとの認識を示した上で、「デフレを脱却して物価上昇率がプラスになるよう協力したい」と日銀の協力に期待感をにじませた。
こうした動きに対し、日銀の政策委員会は神経をとがらせている。09年12月1日の臨時金融政策決定会合の議事要旨によると、ある政策委員から「(政府のデフレ宣言などが)家計や企業のマインド面に悪影響を及ぼす」との懸念も表明されていた。日銀は同日の会合で追加の資金供給策を決めたが、「政府がデフレと騒ぐから、ますます企業や消費者の心理が悪化する」という批判があるということだろう。
金融緩和だけでは無理、という日銀のスタンス
また、日銀の白川方明総裁は1月29日の講演で、物価を体温に例え、「体温だけを人為的に長期間にわたって引き上げることは不可能だ」と指摘、基礎体温を上げるには「体質改善」が必要との認識を示した。つまり、新たな需要を創出するような規制緩和など企業サイドの改革こそが必要で、金融緩和による資金供給だけでは不十分だという見解だ。
これに対し、民主党政権の経済政策は基本的に家計(需要)サイドにお金を配分して内需を支える方向だ。しかも、米格付け会社「スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)」が、財務悪化懸念を背景に日本国債の格付けを引き下げる可能性を示している。こうした状況下で、さらなる財政出動は難しいことが、日銀頼みの姿勢を強めているようだ。政府と日銀は、菅氏が言うような「方向性」すら一致していない現状かもしれない。