台湾のパソコン(PC)メーカー・アスースが、テレビに接続して使うミニPCを発売した。「リビングでインターネットを楽しむためのPC」とうたうが、ネットブラウザやアプリケーションで表示される文字はテレビ画面では見づらい。テレビで問題なく楽しめるのは映像コンテンツぐらいだ。その目的のためだけに、わざわざ買う人はいるのだろうか。
アスースは1月30日、テレビ接続型PC「EeeBox PC EB1501」の発売を開始した。重さ1.2キロの小型PCで、価格は4万9800円。PC本体にワイヤレスのキーボードとマウスがセットになっているが、モニターはついていない。「テレビにつないでインターネットを楽しもう」というのが、同製品のセールスポイントなのだ。通常のPCモニターにつなぐのと同じように、リビングにあるテレビの横に置き、接続して操作する。
「大型テレビにつないで、高画質動画が問題なく見られる」
アスース日本法人に聞くと、「30~40インチの大型テレビにつないで、高画質(HD)の動画が問題なく見られる」と話す。PCはDVDマルチドライブを搭載しており、ネット経由で入手した映像に加えて映画などのDVDも楽しめるという。「PCモニターは19インチが主流」(同法人)で、30~40インチともなると、価格は同サイズの薄型テレビより割高なものが多い。迫力のある映像を楽しむためには、わざわざ高額なPCモニターを買うよりテレビに繋いだ方が早い、というわけだ。
しかし、現状ではまだまだ動画の閲覧より表示されたテキストを読むことが多い。この点をたずねると、アスースは「用途に応じて、PCをビジネスに使うのであれば(テレビではなく)専用モニターにつないでお使いいただければ……」と、歯切れが悪い。テレビ「にも」接続できるが、必ずしもそれが「前提」ではないようだ。「大型テレビでネットを楽しむ」とのうたい文句も、動画コンテンツ以外となると今ひとつ説得力に欠けている。
「テレビ接続型PC」は失敗の連続
ディスプレーメーカー・ナナオ(本社・石川)に聞くと、テレビは映像を鮮やかに映すのが目的だが、PCモニターは細かい要素を正確に表示することを重点に置いているという。そのためPCをテレビに接続した場合、長時間にわたって小さな文字を読むなどの作業を続けると、目の疲労が激しくなる。「同じ30インチ型でも、PCモニターは細かな表示を可能にするため薄型テレビより解像度が高い」と同社では説明する。
「リビングにあるテレビとPCを接続するケースが増えるとは考えにくい」と話すのは、ディスプレー産業の調査会社ディスプレイサーチのIT&FPDアナリスト・氷室英利氏。PCの主な用途は、個人的なコミュニケーションツールであり、家族が集まるリビングのテレビに表示するのはそぐわない、というのだ。
実際、「テレビ接続型PC」は失敗の連続のようだ。氷室氏は「数年前、NECや富士通が大型テレビパネルを搭載したチューナー内蔵一体型PCを発売しましたが、あっという間に市場から消えました」と言う。ソニーやシャープも類似の製品を出しているが、大ヒット商品になっているとは言いがたい。個人向けと言われる、モニター用の液晶パネルを使った20インチ型などの小型テレビもあるが、一般のPCモニターより割高なこともあり、それほど売れていない。
ネット経由で有料動画が配信できたとしても、市場自体が成長しておらず、「動画が楽しめるというだけでリビングにPCが置かれることはない」と氷室氏は断言する。