中国人の個人観光ビザの解禁を受けて、中国人客を呼び込もうと様々な取り組みが行われている。中には医療と観光を組み合わせたプランの実施を検討しているところもある。
神奈川県横浜市では、中国の旅行会社を対象にした招待ツアーを実施した。中国人の海外旅行は、現地の旅行代理店しか扱えないことになっているためだ。まずは旅行代理店に売り込もうという試みだ。
中国人客の日本旅行は周遊ツアーが多い
ツアーには2010年1月18日から4泊5日の日程で、北京、広州の旅行会社4社8人が参加した。横浜市内の高級ホテルを視察したほか、ヨドバシカメラや大黒屋といった店舗を訪れた。そのほか横浜市内の観光地――中華街やみなとみらい、赤レンガ倉庫や大桟橋などを回った。
横浜観光コンペンション・ビューローの担当者は「中国の個人向け旅行の解禁と羽田空港の国際化の進展で、中国人旅行客は相当数増えると見込んでいる」と期待を寄せる。現在、日本への旅行には周遊ツアーが多いという。たとえば、関西国際空港で降りた後、京都をまわり、富士山を見て、東京へ向かうという具合だ。その際、横浜には半日程度しか滞在しない。
そこで、前出の担当者は「今は中国人旅行客の8割、9割は日本に初めて来る人たち。彼らは初めて海外旅行する人の心理と同じで、最初は広く観光地を見渡したいものでしょう。ところがリピーターになるに従って、気に入った場所は深くじっくり見たくなるもの。その場所が横浜であって欲しい」とPRしている。
大阪観光コンベンション協会は2009年10月29日、中国の日本情報サイト「JAPAN在線(ジャパンザイシェン)」内で大阪観光の特集のページを開設した。大阪の定番観光スポットや、グルメ・ショッピングに適した場所、そしてホテルで受けられるエステなどを紹介している。
担当者によると、中国人観光客増加が見込まれているのに、協会ホームページへは中国からのアクセス数が少なかった。そこで、検索サイト「Baidu(バイドゥ)」で「日本」と検索すると、10位以内にランクするサイト「JAPAN在線」と組むことにしたのだ。
周囲に知られたくないので日本に来たい
一方、ユニークな試みを計画しているのが長崎県だ。医療と観光を組み合わせたツアー「メディカル・ツーリズム」を検討している。日本では比較的馴染みが薄いが、欧米では注目されつつある手法という。まだ実験段階だが2010年1月29日、モニターツアーが行われる。上海の旅行代理店が参加者を募り、10人程度が来日する予定となっている。
具体的には今回、3泊4日のうちの一日は西諌早病院で過ごす。そこで、がんの早期発見に役立つ最先端の画像診断PETやCT検査などで「がん検診」が行われる。その結果は中国人医師により、すぐさま伝えられる。そして残りの日程で、長崎市や島原市内を観光する。
この取り組みは、長崎市内で在中国日本企業向けのメンタルヘルスを手がけている産学連携企業「アンドメンタル」が中心となり、長崎市や長崎国際観光コンペンション協会などと協力して行なっている。「アンドメンタル」の鶴田祐二さんは、こう話す。
「中国人の話を聞いてみると、癌や脳のことが心配だと話している人が多い。ただ、周囲に知られたくないという人もいます。そこで自国で検診を受ける代わりに日本に来たい、というわけです。日本の医療への信頼も勿論あります。長崎の観光活性化のために、2010年度には事業化したいと考えています。中国から近い立地条件が幸いして、将来は九州全体にも広がると期待が持てます」