「ウォークマンの逆襲」。そう題されたテレビ東京の経済ドキュメンタリー番組が放送された。携帯デジタルプレイヤー市場のソニーとアップルの攻防に焦点をあて、ソニーが4年8か月ぶりにトップシェアを奪還したという内容だが、「ソニーを持ち上げる内容で、いきすぎではないか」という疑問の声が上がっている。
わずか2週間で終わった「トップシェア奪還」
問題の番組は、テレビ東京が2010年1月21日に放送した経済ドキュメンタリー「ルビコンの決断」。ビジネスの世界の劇的な人間模様を「再現ドラマ」で伝える番組だ。公式サイトによれば、
「人生を賭け、会社の存続を賭け、新しい時代を切り開いていった人たちの "決断"をドラマチックに描き、見ている人たちに勇気を与えていく新しい報道番組です。これまで、カメラで撮影することの出来なかった経済の裏側を、徹底したペン取材によって浮き彫りにし、事実に基づいたドキュメンタリードラマとして描いて行きます」
とされており、これまで「プリウスを創った男たち」「ユニクロ快進撃の真実」などのテーマで放送している。
1月21日に放送されたのは「ソニー ウォークマンの逆襲」。かつて携帯音楽プレーヤーの分野で圧倒的な強さを誇ったウォークマンが、アップルのiPodの登場によって後退を余儀なくされたが、さまざまな変革によって4年8か月ぶりにシェアトップを奪い返した――そんなストーリーを俳優の野村宏伸さんの主演でドラマチックに描いた。
たしかに、ソニーは2009年8月末から9月初めにかけて、首位に返り咲いている。しかしその直後、アップルが新商品を発表するとたちまちシェアトップを奪い返され、いまもアップルの優位は変わっていない。4か月前の一瞬の出来事をとらえて、「ウォークマンの逆襲」という仰々しいドラマに仕立て上げるのはいささか公平性を欠くのではないか。そんな声が上がっているのだ。
「あまりにも強引すぎる」番組構成
たとえば、1月22日発行の日刊ゲンダイは「テレ東『ウォークマンの逆襲』の不可解」と題した記事を掲載。「トップシェア奪還といっても、昨年8月末からの2週間だけ。iPodのシェアは今年に入っても独走が続いている」という家電関係者の声を紹介しながら、
「ま、『ものづくり日本ガンバレ!』ってことで番組を制作したんだろうけど、半年も前に一瞬勝っただけのことを仰々しく持ち上げているのを見ると、逆に切なくなってくるのだ」
と結んでいる。ネットでも、「Maimaikaburi」というブログが「間違った論点のドラマを作った」とテレビ東京を批判している。
「互角に戦える位に復活したという印象でつくられていたドラマには多いに不満を感じた。ニューモデル発売間際の2週間(Appleが新製品に合わせ出荷調整の期間)に4年8ヶ月ぶりにシェアを奪還したことをことさら重要視して逆襲と言いたかったのだろうが、それではあまりに強引すぎるのだ」
番組では、ウォークマンの首位奪還がわずか2週間にすぎなかったことにも一応触れていたが、その後の動きについては年末の数字を紹介しただけで、詳しく取り上げなかった。また、なぜ逆転現象が生じたのかについて、ソニー側の視点のみで描き、アップル側の事情に触れなかった。
だが、このシェア逆転が起きた09年8月末は、iPodの新製品が発売される直前で、店頭の在庫が少なくなるとともに、消費者の買い控えが起きていた時期だったのだ。ちょうどこの頃、調査会社BCNのアナリスト・森英二さんはJ-CASTニュースの取材に対して、
「新製品の内容にもよりますが、アップルが首位を奪い返す可能性は大きいでしょう」
と答えている。実際、アップルが9月10日(日本時間)に新型iPodを発表すると、シェアは一気に逆転。9月末には、アップル68.3%、ソニー22.7%と40ポイント以上の大差がついた。その後、ソニーは40%近くまでシェアを戻したが、アップルも50%以上のシェアを保っており、iPodの優位は変わっていない。
ソニーがアップルに対抗するためにさまざまな改革に取り組んできたのはその通りだろうし、他の家電メーカーが次々と携帯音楽プレーヤー市場から撤退するなかで、唯一ソニーのみがアップルのライバルたりえているのも事実だ。だが、「徹底したペン取材」にもとづく「報道番組」をうたっている割には、今回の「ルビコンの決断」はバランスを欠いているように感じる。
番組についてテレビ東京に取材を申し入れたが、広報担当者の回答は、
「J-CASTさんの取材には、お答えできないことになっております」
というものだった。