「就活くたばれデモ」と銘打った大学生たちのデモ行進が2010年1月23日、東京のオフィス街で実施された。「就活のバカヤロー!」と書かれた横断幕をもって「希望がないよ!」などと訴えた学生のほとんどは、デモ初体験。ネット掲示板で生まれた着想が、バーチャル空間での議論を経て、リアルな共同行動につながった。
デモには、東京都内の大学生を中心に10数人の若者が参加した。ほとんどが男性で、女性は1人だけだった。午後2時半、銀座1丁目の公園を出発したデモ隊は、オフィスビルや店舗が建ち並ぶ外堀通りを北上。東京駅前にあるリクルート本社の前を通過して、日本橋までの約2キロを歩いた。
「就活のあり方に不満があっても、声に出すことができない」
学生たちは「お先まっくら」「毎日いきづらい」などと書かれたダンボール紙を手にもって、「就活茶番!」「勉強させろ!」「希望がないよ!」とシュプレヒコールをあげた。ただ、今回初めてデモに参加したという学生が大半だったこともあり、総じておとなしい印象。沿道の人達は「いったいなんだろう」という表情で見守っていた。
今回のデモは、2009年11月に札幌で実施された「就活くたばれデモ」に刺激された東京の大学生たちが中心となり、インターネット上で企画された。
きっかけは、ネット掲示板「2ちゃんねる」の大学生活板に「関東でも就活くたばれデモをやろう」と呼びかけるスレッドが立ったことだ。その後、だれでも自由にページを編集できる「WIKI(ウィキ)」や、見知らぬ人たちがネットで議論できる「Googleグループ」といったネットサービスを活用して、企画を煮詰めていった。
Googleグループに参加したのは約30人。東京にかぎらず北海道から沖縄まで全国の若者が語り合った。その結果、就職情報サービスを運営するリクルートにアピールしようということになり、本社がある東京駅周辺でデモを実施することが決まった。
それにしても、なぜ「就活くたばれデモ」なのか。言葉の響きからすると、就職活動そのものを否定しているようにも聞こえるが、そういう意図ではないという。企画の中心となった都内私立大学の2年生は
「現在の就職活動のあり方を世に問いたいと考えた。今は1年生から内定者と話をしたりして就活を始める人も出ているが、このまま早期化していく流れが強まると、もう大学ではないのではないかという意識があった」
と話す。また、大学院に行くか就職するかで悩んでいるという早稲田大学の3年生は
「大学生の多くは今の就活のあり方がおかしいと思っているのに、そういう不満を声に出すことができていない。こういうデモによって不満を可視化し、それをきっかけに就職情報会社や企業も含めて議論していければいい」
と語った。
「沿道の視線が気になり、恥ずかしかった」
欧米と違って、日本にはデモの文化が根付いていないといわれる。特に学生運動が盛んだったころを知らない20代、30代の若者はデモに参加した経験もなく、どのように実施したらいいのかよく分からない。今回も経験者がほとんどいないなかで、警察との対応やルート設定などで苦労したという。
初めてデモに参加した学生の反応は、
「沿道の視線が気になり、緊張して周囲を見られなかった。恥ずかしくて、前だけを見て歩いていた」(法政大学3年生)
というものもあれば、
「公道を歩いているうちに気分が高揚してきて、面白かった。またデモがあれば参加したい」(明治大学3年生)
という意見もあり、さまざまだ。
現代の若者のデモといえば、東京芸大の毛利嘉孝准教授が『ストリートの思想』(NHKブックス)で紹介しているように、既存の労働組合や市民団体とは無関係の、自由気ままな新しいタイプのデモが東京・高円寺などで実施されている。今回の「就活くたばれデモ」も後方でハーモニカを吹き鳴らす若者がいるなど、それを意識したような動きもみられた。
以前、学生デモを企画したことがあるという前出の早大3年生は、
「デモには『怖い』『イタイ』というイメージがあり、男性中心になりがちと言われている。今後は僕らももっと戦略を練って、より見られることを意識したパフォーマンスをしないといけないだろう」
と話している。