「キンドル」の電子書籍について米アマゾンが発表したのは、印税を35%から70%に条件付きで引き上げるという衝撃的なものだった。著作者を囲い込む作戦とみられており、既存の出版社には脅威となりそうだ。
「コンテンツをより豊富にすることですね。品揃えを充実させたいと考えています」
印税7割の狙いについて、アマゾン・ジャパンの広報担当者は、こう明かす。
著作者を囲い込んで紙の書籍を駆逐
米アマゾンが2010年1月20日発表した印税の追加オプションは、価格破壊で一気にシェアを拡大しようとするものだった。印税を2倍にも引き上げる代わりに、書籍の販売価格を安く設定できるようにしたのだ。
印税7割の条件として、販売価格を2.99~9.99ドルに据え置き、紙の書籍の最安値より2割引以上にすること、ほかの電子出版サービスより安くできるようにすることなどが挙げられている。
つまり、著作者を囲い込んで紙の書籍を駆逐し、電子書籍でも覇者になろうという意図が見え隠れしている。これまでの印税35%の枠組みは残して利益を確保しながら、バーゲンセール品で売り上げを伸ばそうという作戦らしい。
メディアジャーナリストの津田大介さんは、こう分析する。
「印税が高くなりますので、書籍を安くすることができます。それで、類似業者の価格競争に勝とうと、出版業界で最安値にしたわけです。高い印税を払う代わりに、アマゾンは、音声ブック化など書籍を自由に利用できるように縛りもかけています。著者を囲い込み、市場も押さえようとする、一石二鳥のうまいやり方だなと思います」
キンドルは、アメリカでは6割のシェアがあり、2位のソニーなどをさらに引き離そうというわけだ。
「著作者が出版社より強くなる」
この時期にアマゾンが印税を上げた理由として、米アップル社が電子書籍も扱うタブレット型端末を発売するとみられていることがある。同社では、記者を招いて2010年1月27日に特別イベントを予定しており、その前に先手を打とうとしているのではないかということだ。
津田大介さんは、「ネット上のアップルストアでは、アプリの開発者に販売価格の7割を支払っています。新しいタブレット型端末では、著作者についても同じルールを適用しそうなので、アップルを牽制しようとしたのでしょう」と解説する。
日本向けには、キンドルが09年10月から米アマゾン社サイトで売られているが、日本語版はまだ出ていない。また、10年6月30日から導入される印税7割は、今のところアメリカ国内だけだ。
今後、日本の出版界にどのような影響があるのか。
大手出版社では、キンドルなどに対抗して、日本電子書籍出版社協会を2月にも設立することを明らかにしている。そこでは、出版社の不利にならないように、書籍をデジタル化で2次利用できるよう模索しているようだ。
津田さんは、日本の出版社が海外の動きを様子見しているとみる。
「アマゾンやアップルなど、どこが勝つのかを見て、強いところと結びつこうと考えているようです。しかし、今からでは手遅れの面があり、アマゾンなどと組めるとは限りませんね。著作者は、確実にアマゾンなどを選ぶ選択肢ができますし、出版社に比べて相対的に強くなります。今年は、著作者の動きが顕著に見られる年になるでしょうね」