ビール日本一はキリンなのかアサヒなのか。統計ごとに違うトップの座。それだけ2社がはげしく競っていることが背景にあるのだろうが、消費者には極めて分かりにくい。
ビール大手各社の2009年のビール類(発泡酒、第3のビールを含む)「出荷量」市場シェアは、キリンビールが37.7%で、アサヒビールの37.5%を僅差で抑えて9年ぶりの首位となった。これより前、各社が既に発表した「販売数量」ではアサヒが小差で首位を守っているが、販売先の決まっていない在庫分を含む課税数量という業界の「公式統計」ではキリンが上回った。
「第3のビール」キリンの戦略が勝利
両社の面子をかけたシェア争いが2つの統計の首位が違うという異例の結果に結びついた格好だ。ただ、両社の「勝敗」は別にしても、ビール類市場全体で通常のビールよりも価格の安い「第3のビール」の比率が高まる中、同分野に広告宣伝費などを集中投入してヒット商品を育てたキリンの戦略が奏功したのは確かだ。アサヒが2010年以降、どう巻き返すか注目される。
大手5社の出荷量は前年比2.1%減の4億7250万ケース(1ケース=大瓶20本換算)で、統計が始まった1992年以来の最低を5年連続で更新した。ビールと発泡酒の出荷がそれぞれ6.7%減、15.6%減と大きく縮小。その一方、「第3」は21.4%増え、市場全体に占める比率は前年の23.7%から29.3%に高まった。家庭用で飲まれる量はすでに通常のビールを超えたというのが業界の一致した見方だ。
高齢化などでビール類の市場はこの数年漸減傾向が続き、一杯目からチューハイや焼酎を飲む若者が増えている。09年は特に、節約志向からサラリーマン層の外食や接待の回数が減ったことや、夏場の天候不順がビールの減少に拍車をかけたようだ。
キリンの松沢幸一社長は9年ぶりの首位に奪還について、「今後、ブランドイメージ向上などで販売の追い風になる」と期待を表明。05年4月に発売した「第3」の「のどごし生」が、味の改良を重ねることにより、自信を持って提案できる商品になったことが好調の要因だと分析してみせた。「のどごし生」の販売量は前年比11.8%増で、ビールの主力商品「一番絞り」を上回る同社の看板商品になっている。
景気低迷のあおりで外食を控え、家庭で飲む人が増えた
一方、首位の座を奪われたアサヒビールの荻田伍社長は「業務用ビールがここまで減るとは思わなかった」と語る。ビールの主力「スーパードライ」は居酒屋や料理店などの外食業界で圧倒的な定番の座を維持しているが、景気低迷のあおりで消費者が外食を控え、家庭で飲む人が増えたことは計算違いだったようだ。
「第3」ではキリンより3年ほど遅れて「クリアアサヒ」を発売、09年は同36.9%増の1933万ケースを販売したが、それでも「のどごし生」の4割強に過ぎず、消費者の節約志向への対応が遅れたことは否めない。
各社は、ビール類に占める「第3」の割合は今後も伸び続けると見ており、この分野でのシェア争いが今後の収益の帰趨を握る。3月にキリンが第3の新商品「キリン1000(サウザン)」、サントリーが「7種のホップ リラックス」の発売を予定。サッポロは「ドラフトワン」のリニューアルに合わせ、3月から出荷価格を数%引き下げ、価格でも勝負を挑む。2009年、1本100円でサントリー製の「第3のビール」を発売し、業界にさざ波を立てたイオンなど大手小売り業者も、新たな方策を練っているという。市場の縮小傾向が続く中で「第3」をめぐる争いはますます激しくなりそうだ。