陸山会の土地購入問題で、東京地検特捜部が強制捜査後に、再び民主党・小沢一郎幹事長に事情聴取を要請している模様だ。小沢氏が検察批判を繰り返す中でも、特捜部が強気に捜査を進めるのはなぜか。
「検察には、金融機関の名前や支店名を挙げ、『どうぞお調べ下さい』と言いました」
都内で2010年1月16日に開かれた民主党大会で、小沢一郎氏は、検察の事情聴取に応じなかった事情についてこう述べた。そして、元秘書ら3人を逮捕した強制捜査への憤りをぶちまけた。
「形式犯以上の事件解明に自信」
鳩山由紀夫首相の違法献金事件では、首相らへの事情聴取は行われず、上申書提出だけで済んでいる。小沢氏は今回、政治資金収支報告書への「記入ミス」だと主張していることから、形式犯への扱いとしては不平等だと感じているのかもしれない。
ところが、マスコミで報じられているのは、もっと生々しいお金のやり取りだ。小沢氏側は、土地購入資金の約4億円について、「父親の遺産」「積み立ててきた個人の資金」などと釈明している。これに対し、地元岩手県のダム建設事業発注を巡り、ゼネコン側から小沢氏側に裏献金が渡されているという報道が次々に出ているのだ。
下請け業者「水谷建設」の幹部らが元秘書に計1億円を渡したと特捜部に供述したとの報道が一つ。さらに、産経新聞は、18日付朝刊トップで、同じ下請け業者の「山崎建設」元幹部らが大手ゼネコンを通じた5000万円の裏献金を供述したと報じた。
真偽はまだはっきりしないが、テレビの報道番組では、検察側が強気になっている背景について検察関係者から様々な見方が出ている。
テレビ朝日系で17日放送の「サンデープロジェクト」では、元東京地検特捜部長の宗像紀夫弁護士が、検察は形式犯以上の事件解明に自信を持っていると指摘した。
「小沢さんの言うままになっていたら存在価値がない」
「ダム受注の請負業者がその謝礼として出した金だろう、そうすると、東北地方における公共工事利権ということを最終的に明らかにしなければならない問題ということで捜査に入っています。水谷建設などの金の流れはきちっと把握していると思いますよ」
そのうえで、宗像弁護士は、元請けの大手ゼネコンから指示があったのか、下請けだけの判断だったのか、解明されるとの見方を示した。
一方、東京地検検事出身の郷原信郎名城大教授は、やや慎重な考えを述べた。
「現状では、政治資金収支報告書で、トータルの収入と支出が少なかったというだけなんですね。どんな収入を書かなかったのか特定されていないので、このままもし起訴したら歴史的な汚点にもなりかねません」
検察関係者でも、強気であることについての見解が割れている状況だ。
特捜部がこの時期に強制捜査に乗り出したことについて、元東京地検検事の大澤孝征弁護士は、取材に対し、時効の問題を指摘する。
「小沢さんを政治資金規正法違反で立件するつもりで、捜査していると思います。その時効は、今年の3月までなので、国会前の時期しかないと判断したのでしょう」
大澤弁護士は、さらにこう説明する。
「規正法では禁固5年で、単純収賄の懲役5年とあまり変わりません。贈収賄ですと、職務権限の問題で、立証が難しい。しかし、規正法なら、立件は比較的楽で、贈収賄の金の入りだけでいいわけですよ。これが検察の武器になっているように感じます」
さらに、こうしたことを許さないという思いが強気の背景にあるとみる。
「特捜部は、権力者の巨悪に挑み続ける伝統があります。小沢さんの言うままになっていたら存在価値がないと考え、聴取拒否に『冗談じゃない』と思ったのでしょう。鳩山首相の問題では、特別視して、上申書だけで済ませていたのはまずかった。その事件の反省もあると思いますね」