室内で安定して野菜を生産する「野菜工場」は国の支援が追い風になり、50~60カ所に広がっている。工場野菜は無農薬なので安全で、えぐみがなくておいしい、と外食産業で評判がいい。海外では砂漠や極寒地でのニーズがあり、輸出に便利なコンテナ型も登場した。
野菜工場とは、施設内で光や温度、湿度といった植物の生育に必要な環境を人工的に作りだし、季節に関係なく連続的に野菜を生産するシステムだ。いろんなタイプがあるが、完全に密閉された空間で発光ダイオード「LED」や蛍光灯などの照明を使うものと、太陽光を併用するものがある。土を使わない水耕栽培が主流だ。どこにでも設置できるので、工業団地、オフィス、店舗、レストランなどに広がり、現在は全国に50~60工場あると言われている。
えぐみがなく、野菜本来の味がしておいしい
生産者にとって野菜工場のメリットは、天候に左右されず、安定して生産できること。カゴメ、キユーピー、JFE、オリンパスといった大手企業や、中小企業などが参入している。
フェアリーエンジェル(京都市)は、延べ床面積3748平米と「世界最大級」の大型野菜工場を運営する。レタス、サンチュ、水菜、ルッコラなどの葉物野菜を作り、「てんしの光やさい」というブランドで全国の百貨店やスーパーマーケット300店舗以上で売っている。
価格は60gあたり158円で、通常の野菜よりも高めだが、「完全密閉」で作っているので農薬を使わなくても虫がつかないし、土で汚れることもないので洗わずに食べられると好評だ。なかでも子どものいる家庭や、アトピーや農薬アレルギーの人に売れている。
同社広報担当者は、
「えぐみや臭みがなく、野菜本来の味がしておいしいですし、生産工程からパッケージまで一切空気に触れないので長持ちします」
とアピールする。
工場野菜は外食産業にも広がっている。
北海道岩見沢市の社会福祉法人クピド・フェアは野菜工場でレタス「コスモリーフ」を作り、市内のホテルやレストラン、学校給食などに卸している。
広報担当者は、
「通年で同じクオリティの野菜を同じロットで提供できるというのが一番のメリットです。土がついていないので捨てるところがほとんどなく、廃棄コストがかかりません。市内なので輸送コストも節約できます」
と話している。
海外進出はここ1、2年が勝負の時になる
農林水産省と経済産業省が野菜工場の導入支援を行っていることも追い風になり、関心を示す企業が増えている。三菱総合研究所は「植物工場研究会」を2009年3~9月に開催したところ、製造業、食品会社、種苗会社、金融機関など78社が参加した。
野菜工場のニーズは国内にとどまらない。
三菱化学は40フィートコンテナ(長さ12.2×幅2.4×高さ2.9m)に最新システムを積み込んだ「コンテナ野菜工場」を開発し、2010年1月12日から売り出している。すでに中東カタールでの販売が決まり、4月に納入する。
砂漠や極寒の地でも野菜を作ることができて、コンテナなので輸送も簡単だ。適温に保つ空調設備、水を循環濾過して再利用する水処理設備、光合成の光源となる照明設備など、野菜の栽培に必要な設備を完備した。1日当たり50株程度のレタスや小松菜など葉物野菜を収穫することができる。太陽電池なども備え付けられ、省エネルギーも可能となる。
価格は1台5000万円から。今後は年間10基程度の販売を見込んでいる。
前出の三菱総合研究所の研究員は野菜工場の海外進出について、
「ここ1、2年が勝負の時になるだろう」
と見ている。
海外ではオランダとイスラエルが野菜工場の先進国だが、いずれも太陽光を使うもので、日本が得意とする完全密閉型は普及していない。しかし油断は禁物だという。近年、中国で日本の野菜工場への関心が高まっていて、大学などで研究開発が進んでいるからだ。
一方、野菜工場の鍵を握るのは光や温度などを制御するソフトウェアで、その知財管理をしないと技術を盗まれる危険があり、目下の課題となっている。