日航株が連日の大商いだ。2010年1月14日の出来高は10億4259万株となり、東証第1部の出来高の32%を占めた。上場廃止が確実といわれる中で、完全にマネーゲームの様相を呈している。
この日の日航株は、前日の終値7円で取引が始まり、一時は10円まで上昇。終値は前日比1円高の8円で引けた。
わずかな材料でも株価が短期間に乱高下
法的整理に反対していたメガバンクが政府の要請を受けて「容認」に転じたことで、個人投資家など多くの投資家が「売り」を加速させたが、「清算までに、1円でもサヤを抜こう」という投資家が「買い」に入った。上場廃止目前の「1円株」の売買が盛り上がることを「祭り」というそうだが、しばらくは「JAL祭り」の1円をめぐる攻防が続きそうだ。
上場廃止が決まってからの大商いで思い起こされるのは、2003年11月に一時国有化された地方銀行の足利銀行を傘下にもつ「あしぎんフィナンシャルグループ」の株式だ。1円になったあしぎん株を買って4円で売り抜いたとされる男性が、儲けたお金の一部を名古屋のテレビ塔からバラ撒いて事件になった。
あしぎん株に限らず、1円で買った株式を2円で売り抜ければ、単純にお金が2倍になる。法的整理の報道があり、東証が整理ポストに指定した株式が急落したあとに、一時的に値上がりすることもしばしばある。ふつう投資家は紙くずになってしまうかもしれない株式を買おうとは思わないが、上場廃止が決まって、すべてが清算されるまであいだの1円、2円のわずかな値動きをついて儲けようという投資家もまたいるのだ。
あしぎん株の時には、国が主導して破たん処理を進めたことや、銀行本体よりも関連会社の収益に着目して上場維持を期待する向きあったことが一時的な値上がりになったとされる。「政府が関与するとそれだけで注目されるし、わずかな材料でも株価が短期間に乱高下する。おのずとプロ向きの相場になってしまうが、短期で儲けようという投資家は殺到する。それがまた乱高下を呼ぶ」と、ある証券エコノミストは話す。
法的整理で揺れた日航株も、「この1か月間に大きく儲けた投資家は少なくないはず」と推測する。
1円になってもその後3~5円の値動きが見込める?
数年前まで、「1円株」を買う個人投資家にはマニアが多かった。紙くずになるのを承知で買う、株券を記念にしようというコレクターだ。しかし、それも09年1月に始まった株券の電子化によっていなくなった。
一方、株価が1ケタ台のギリギリまで投資して儲けようという個人投資家が増えていて、なかには「整理ポストに指定されてから(清算までの1か月)が勝負」という猛者もいる。その個人投資家は日航株についても、「1円なら買いたい」と漏らす。「信用取引をしている投資家も少なくないはずで、1円になっても、買い戻しが入り、その後に3~5円の値動きが見込める」と読んでいる。
こうした個人投資家がマネーゲームに参戦する背景には、いわゆるデイトレーダーやインターネット取引の存在がある。相場をチェックしながら機動的に売買できることや売買手数料が安くなったことで、「1円」で投資しても以前より多く儲けられるようになったためだ。
とはいえ、いまの日航株は1円、2円で値が付いても、きわめて多くの投資家が取引成立を順番待ちしている状況での投資になる。まして、買いと売りとの両方を成立させないことには利益は得られない。そのことを考えると、かなり高いリスクの取引であることは間違いない。ある証券マンは「ほとんど(成立する)可能性はないと思ったほうがいいです」と、クギを刺す。