三井住友8000億円の増資 「同一年度に2回」は掟破り?

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   三井住友フィナンシャルグループ(FG)が8000億円規模の普通株の公募増資を2010年1月下旬に実施する。国際的な自己資本規制の強化をにらんだ措置だが、三井住友は2009年6月にも約8600億円の普通株増資を実施しており、同一年度中に2回も大規模増資するというのは異例。株価も前回増資時を下回っており、「市場の掟破り」(市場関係者)との指摘も出ている。

   増資の背景にあるのは、主要各国の金融当局で構成するバーゼル銀行監督委員会(本部・スイス)が検討する自己資本規制の改革。2009年末に改革案が固まり、国際的に活動する銀行は、「資本の質」が高いとされる普通株の比率を引き上げる必要が出てきた。具体的な比率や実施時期、テンポなどは10年中に決める予定だが、現行の規制で、国際展開する銀行について求められる「総資産に対する自己資本の比率8%以上」の規定が強化される。

1株当たりの価値が大幅に低下

   現在、自己資本のうち、普通株や優先株など「中核的自己資本」は4%以上(他は劣後債などの「補完的自己資本」)が必要とされているが、新規制は、「中核的自己資本」の中の普通株式と利益剰余金などを「狭義の中核的自己資本(コア資本)」と規定し、その一定比率以上の確保を求める。その必要とされる比率は最低でも4%、場合によっては6%程度になるともささやかれる。

   三井住友の「コア資本」は現在、5%台半ば~6%弱とされるが、「繰り延べ税金資産」(将来戻ってくると見込まれる税金)を含む数字のため、これが「コア資本」と認められないと、現状は4%台半ばになる。今回計画する増資が終わると、「コア資本」の比率は7%程度、繰り延べ税金資産を除いても6%台に到達し、「新たな規制が実施されても、クリアできる水準を確保できる」(三井住友幹部)見通しだ。

   だが、これはあくまで三井住友側の都合であり、問題は多い。

   一番が既存株主のもつ株式の希薄化だ。今回の増資による発行済み株式数の増加に伴い、現状の株価水準では1株当たり利益が3割程度薄まる計算。09年の増資を合わせると、発行済み株式が約7割も増加し、1株当たりの価値が大幅に低下することになる。

新たな成長戦略きちんと示せるか

   加えて、三井住友の株価はこの間やや戻したとはいえ、2010年1月13日終値で2808円にとどまる。前回増資時の09年6月の株価は、一時4520円(年初来最高値)をつけるなど高値水準で、公募価格は3928円だった。いまの株価はそれに遠く及ばない。前回の水準を下回ったままの増資には、「市場の最低限の『掟』さえ破るもの」(民間研究所エコノミスト)との声が出ている。

   問題だらけの増資だが、やる以上は新たな成長戦略を示す必要がある。前回の増資は日興コーディアル証券買収という明確な目的があった。今回は、「収益力の強化」を掲げ、利益を増やして株主に報いる方針を示している。

   具体的には①利ざやの低い融資などの資産を売却し、13年3月までに約5000億円を捻出するほか、取引先の持ち合い株を数千億円削減するなどして財務体質を改善する、②余力でアジア戦略や投資銀行部門を強化する――などの方針を示す。ただ、海外戦略の具体策は「今後の検討課題」(幹部)。

   いずれにせよ、市場の厳しい声を押しての増資だけに、既存株主の理解を得るには収益力強化の実効性が問われる。

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