深刻な不況で、人件費の安い海外に活路を求める企業が増えている。そんな中、日本の人材紹介会社が、海外での仕事を希望する登録者を大幅に増やしている。人材も海外に流出してしまうのか。
「給料が下がっても、海外での貴重な経験が得られます。それに、物価も安いので、生活しやすいですし、お金もたまります」
人材紹介事業を展開するパソナグループの広報室では、海外で働くメリットをこう強調する。
海外の仕事紹介で登録者が3倍増
同社では、海外で働きたい日本人に仕事を紹介する子会社「パソナグローバル」を2004年に設立した。当初は、登録者が約9000人だったが、現在は、3倍の約2万7000人にも増えた。進出先も、香港を手始めにアメリカ、カナダ、中国など8か国24拠点に達している。
不況に加え円高もあって、日本企業が海外に生産拠点を移す動きが進んでいる。特に、人件費が比較的安い中国やインドなど、東南アジア方面に進出する企業が多いようだ。
必然的に、日本企業などの海外での求人が増えることになる。とすると、国内では仕事を見つけにくい若い世代が、そこに目を付けてもおかしくない。
海外就職をルポした朝日新聞の09年12月30日付記事によると、タイでは、日系の職業紹介会社が、日本人の登録者をここ数年で急激に増やし、約200人にもなった。彼らが働くコールセンターでは、手取りの月給は9~12万円だという。しかし、それでもタイ人の大卒初任給3~4万5000円より恵まれている。1日300円で生活できるのも魅力という。
パソナグローバルの登録者増は、そんな動機による応募も反映している。働き先の7割近くがアジアだそうだ。
就職情報サービス会社ディスコでも、海外で職を求める人は減っていないという。特に、東南アジアでは、日本のメーカーの支社や工場などで求人が目立つとしている。
中国に出稼ぎに行く時代がくる?
アジアのうち、特に「世界の工場」中国は、日本人が働く機会が増えることが見込まれている。2010年には、GDPで日本を抜き、アメリカに次ぎ世界第2の「経済大国」になる見通しが強くなっているからだ。
サーチナの1月4日付サイト記事によると、中国メディア「環球網」が同日、「日本のネット上では、日本人ネットユーザーたちが『中国に出稼ぎに行く時代がくるのだろうか?』という議論がなされている」と報じたともいう。中国がGDPで日本を抜くと報じられた状況を受けたものだ。
もっとも、1人当たりGDPにはまだ差があり、稼いだお金を日本に持ち帰っても大金にはならない。「出稼ぎ」というのは言い過ぎのようだ。
ただ、若い世代が海外に流出する傾向は今後も進むとみられている。
日本総研が09年11月10日にまとめたレポートによると、日本人の国外流出数は、07年10月~08年9月の1年間で10万人を超えた。20~49歳までの若い世代が中心で、過去20年間で最大だという。そして、日本の低成長と雇用の受け皿不足がこのまま続けば、企業の動きとは関係なく、特に若い世代が雇用機会を求めて海外へ流出する可能性が高いというのだ。
レポートでは、「人口流出と企業の転出がスパイラル状に連鎖し、わが国の衰退を加速することが懸念される」と警告している。