「脱ダム」と宣言した責任は重い
――八ッ場ダムの地元では建設続行を求める声のほうが大きいようだが?
森 八ッ場ダムがいま停滞しているのは、鳩山政権が代替案を出し切れていないから。それに尽きる。結局、これまでの図式で考えていたら、答えは出てこない。単に建設中止か続行かではなく、従来の公共事業を見直しつつ、地元にもお金が落ちて雇用にも役立つという形の「第3の道」がないと解決しない。ここは「日本版グリーン・ニューディール」の最初のケースとして、八ッ場を考えてもらいたいが、まだそこまで追いついていない感じだ。
――実際にダムの建設現場を訪れた感想は?
森 紅葉で有名な渓谷がコンクリートで覆われようとしているが、これが従来型の日本の公共事業だとすれば、本当に自然と共生しているのだろうかと疑問に感じた。たしかに地元の住民の多くはお金をもらって代替地に移ったり他の町に引っ越したりしていて、ダムに反対という人はほとんどいなくなっているが、ダム建設が唯一の選択肢なのかと思う。
ダムを作らないで、しかも地元の人たちが満足できるような「第3の道」を模索する必要があるのではないか。日本の公共事業のあり方を変える第1のケースにしてほしい。もし八ッ場がうまくいけば、おそらくほかの場所でも使えると思うので。
――今後の見通しは。
森 八ッ場ダムが「日本版グリーン・ニューディール」の第1のケースになる確率は、希望的観測を入れても半分以下なのかもしれない。でも前原さんがあれだけ明確に「脱ダム」と言った以上、その責任は重い。これでもし「やっぱり作ります」ということになると、また鳩山内閣の支持率が下がるだろう。
森摂プロフィール
もり・せつ 東京外国語大学スペイン語学科を卒業後、日本経済新聞社入社。 流通経済部などを経て1998年~2001年ロサンゼルス支局長。2002年9月退社。同年10月、ジャーナリストのネットワークであるNPO法人ユナイテッド・フィーチャー・プレス(ufp)を設立、代表に就任。2006年9月、株式会社オルタナ設立に参画、編集長に就任、現在に至る。主な著書に『ブランドのDNA』(日経ビジネス、片平秀貴・元東京大学教授と共著、2005年10月)など。訳書に、パタゴニア創業者イヴォン・シュイナードの経営論「社員をサーフィンに行かせよう」(東洋経済新報社、2007年3 月)がある。