八ツ場ダムは前原国交相の「建設中止宣言」で一躍脚光を浴びたが、そのほかのダムも事業見直しが進められている。その背景には環境意識の高まりがある。ダム政策の転換についてどう考えるべきか。企業の環境活動をテーマにしたビジネス情報誌『オルタナ』の森摂編集長に聞いた。
八ッ場ダムの実態は「吾妻渓谷改造計画」
――ダム建設に対する世間の目が厳しくなっている。
森 昭和40年代に『黒部の太陽』という黒部ダムの建設をテーマにした映画が作られたように、かつてダムというのは、川をより安全にして水資源を安定的に供給する「プラスの公共財」であると思われていた。ところが実は、マイナス面がかなり大きいということが最近になって分かってきた。
たとえば黒部川のダムの排砂問題に焦点を当てた『器の綻び』というドキュメンタリーを見ると、ダムによる環境破壊がすさまじいということが分かる。長年ダムを運営していると土砂が溜まり、ドロドロに発酵して放流しないといけなくなるが、この「排汚泥」が下流の川や海に大きな影響を与えている。
――ダムの見直しは海外でも進んでいるようだが。
森 日本のダム建設の源流といえるアメリカでは1930年代に、ニューディール政策のもとでダムが盛んに作られたが、80年近いときを経て、公共事業のあり方がガラッと変わってきた。新たなダムを作らないだけでなく、ダムを壊しにかかっている。そしてオバマ政権は、自然エネルギーやバイオマスなどのグリーン・ニューディールで1500億ドル(約15兆円)以上の投資をすると言っている。
ダムによる国土改造計画の本家であるアメリカでは公共事業のあり方が変わってきていて、日本でもグリーン・ニューディールの必要性が唱えられている。だが鳩山政権は、まだそこまで踏み込んだ絵を描けていない。
――八ッ場ダムについてはどう考えるか。
森 八ッ場ダムの全体の予算は4600億円とされているが、そのうちダム本体の工事費は300億とか400億円で、全体の1割にも満たない。費用の大半は国道の付け替え道路などダム本体以外のところで使われている。だから、あれは「八ッ場ダム」という名前がついているけれども、実は「吾妻渓谷改造計画」といったほうがいい。
このような鉄とコンクリートによる公共事業は本当にいいものなのか。逆にいえば、日本でもグリーン・ニューディールというか、木を使った公共事業はできないのかと思う。先日、あるシンポジウムで面白い写真を見たが、オーストリアでは、大きな渓谷にかかる橋が全部木でできていたりする。このような事例を参考にして、日本でもグリーン・ニューディールができるのではないか。