総務省の大臣会見がついに記者クラブ以外にも開放された。原口一博総務相が提案した「会見オープン化」は記者クラブ内での度重なる議論を経て、3か月越しで実現した。会見にはフリーやネットの記者たちがさっそく参加して活発に質問したが、フリーランスのジャーナリストからは「参加条件が厳しすぎるのではないか」との声も出た。
記者会見の「質問者」の名前を明らかにせよ
2010年最初の定例会見が開かれた1月5日。総務省の会見室は約60人の報道関係者でいっぱいになった。そのうち、記者クラブに所属していないフリーやネットの記者・カメラマンは約15人。つまり4分の1が「新参者」で占められていた。
会見時間は約30分間。原口総務相の冒頭あいさつに続いて10人の記者が質問したが、その半数はクラブ外の記者だった。フリーやネットの記者たちの張り切りようは明らかだ。慣例で最初に質問したクラブ幹事社の次に手をあげたのも、フリージャーナリストの岩上安身さんだった。岩上さんは、総務相サイトで公開されている記者会見の発言録に「質問者」の社名・氏名を記載することを提案した。
「どの社の、どういうジャーナリストが、どんな質問をしたかも、国民の知る権利の対象になると思うので、大臣の権限でオープンにしていただきたい」
すでに外務省や金融庁の大臣会見で採用されている公開方式を提案したのだが、原口総務相の答えはあいまいなものだった。
「岩上さんの提案は大変大事だと思うが、個々の記者さんの安全との関係も踏まえて、匿名の質問というものも大事に考えながら、より責任を明確にした質問に答えていきたい」
続いて質問したフリーランスライターの畠山理仁さんは、総務省の会見が記者クラブ主催であることについて「記者の身元確認を記者クラブにまかせてしまっているのではないか」と問いただした。原口総務相は
「私もセキュリティの問題を民間の会社(記者クラブに加盟している新聞やテレビなど)にお願いしていていいのかという問題意識を持っている。公の機関として適切なのか、議論を一歩一歩前に進めていきたい」
と答えながらも、「記者クラブには記者クラブの伝統がある」として、ここでもはっきりとした結論を口にしなかった。
「会見のオープン化をさらに進めるべきだ」
その後、ネット選挙や外国人参政権の解禁などの質問が出たあとで、ちょっとした「ハプニング」が起きた。記者クラブが設定した参加条件を満たしていないために「質問権」がなかったはずのメディアの記者が、そのルールを知らずに質問してしまったのだ。
質問したのは、インターネットでドキュメンタリーやインタビューの映像番組を配信しているアワープラネット・ティービーの白石草さん。白石さんはこれまでにも何回かオブザーバーとして総務省の会見に参加していたが、「大臣会見がオープン化された」と聞いて、当然自分も質問できるものだと思ったのだ。
ところが「日本雑誌協会や日本インターネット報道協会など所定の報道団体に加盟しているメディアか、そこに定期的に寄稿している記者」という参加条件には該当していなかった。そのことに気付かずに白石さんは、原口総務相が年末に表明した「情報通信文化省構想」について質問。原口総務相にしっかりと回答してもらったが、会見後にクラブの幹事社から「ルール違反だ」ときつく注意されてしまった。
「ようやく質問できて良かったと思ったが、ダメだったと分かり、ショックを受けた。今日の会見でもフリーの人達が元気よく質問していたように、活性化という意味でもどんどんオープンになったほうがいいと思うのだが……」
と白石さんは語る。特に総務省の場合は情報通信政策を扱っているので、インターネットを舞台にした新しいメディアにもっと門戸を開いてもいいのではないかという意見だ。
地方分権という観点からも「会見のオープン化をさらに進めるべきだ」という声が出ている。中央省庁の記者クラブは在京メディアに偏りがちで、地方の視点が反映されにくいのではないかというわけだ。地方自治をテーマにした取材活動を続けているフリーランスライターの小川裕夫さんは
「地方にはそれぞれの地域文化の担い手となっているミニコミ紙がたくさんあるが、そういう地域メディアにも会見を開放していくべきではないか。特に原口大臣は今日の会見でも『地域主権改革』を抱負の筆頭に掲げていたくらいだから、総務省は地域を司る省庁としてもっとがんばってほしいと思う」
と話す。大臣会見にフリーやネットの記者が参加できるようになったことは画期的だが、オープン化は始まったばかり。解決すべき課題はまだまだ残されているといえそうだ。