首都圏の「水がめ」は大嘘 「八ッ場ダムを公共事業中止の聖地に」
インタビュー・ダム建設は止めるべきか(上)

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ダム本体の工事だけ中止しているのはおかしい

――八ッ場ダムの地元では、町長を筆頭に建設中止に反対する声が多数だと伝えられている。

保坂   八ッ場ダムには中止宣言直後の9月末に行ったが、「本当に止まるのか、信じられない」という声を聞いた。「生きているうちにダムとやらを見てみたかった」という人もいたが、ダムを熱望しているというわけでもない。ダムができなくても、予定されていたお金が補償されるのなら文句を言う人はいない。ダムが中止になれば、住み慣れた家に住めるのだから。

――ダム観光に期待している声もあるようだが、どうなのか。

保坂   ダム観光というのは幻想だと思う。ダムの上流には草津温泉や万座温泉、嬬恋村といった観光地があって、そこから流れてくる水はきれいなものではない。夏は植物性プランクトンの異常繁殖などがあって匂いもする。しかも洪水対策で水位を3分の1まで下げてしまう。そんな水が少なくて、いろんな富栄養化した水も流れこんでくるようなところにボートを浮かべて乗るなんていうのは非現実的な話だ。
   むしろ八ッ場ダムの建設予定地は、日本の納税者・有権者なら1回は見ておきたいという「公共事業見直しの聖地」にすればいい。そういう人が川原湯温泉に泊まって、吾妻渓谷の美しさと途中まで出来たダムを見て帰ると。そういうところにすればいいのではないか。

――前原国交相はダム本体の建設は中止したが、付け替え道路などの関連工事は続けられている。テレビで有名になったT字型の湖面2号橋も工事が進んでいて、もうすぐ1本の橋になろうとしている。

保坂   そもそもダム本体の工事だけ中止しているところがおかしい。ダムの工事をやめたのであれば、何もないところにジェットコースターみたいな橋を作っても意味がない。それなのに橋を作るのは、究極の税金の無駄使いだ。あの湖面2号橋やほかの付け替え道路を作るには大変な金額と労力がかかる。それを生活再建に回したらいいのではないか。そのぐらいの予算の組み替えをやらなければ、政権交代の意味はない。

――地元だけでなく、下流の自治体の首長もダム中止に反対しているが?

保坂   八ッ場ダムの問題は、テレビで一定程度まで取り上げられるようになったが、まだまだ本質的な議論が避けられている。その本質とは、役人や政治家にとっては、ダム建設は長い時間がかかったほうがいいということだ。役人にしてみれば、長ければ長いほどお金が流れるし、天下りも確保できる。政治家も工事が続く限りは「先生のお力で」と陳情が常にくるので、「よっしゃ、まかせておけ」と言って半世紀もやっている。
   八ッ場ダムがある群馬県からは戦後、福田親子に中曽根、小渕と4人も首相が出ているのに、半世紀かけても終わらない。ということは、早く終えるインセンティブがなかったということだ。むしろできるだけバカでかい金額をかけて、時間もたくさんかけたほうがいいと。それが八ッ場ダム問題の本質で、そういう意味では「公共事業をめぐる総本山」だといえる。関係者としては、公共事業のシンボルを失うのは手痛い。だから、なんとしても八ッ場ダムを再開にもっていきたいと考えているはずだ。

保坂展人プロフィール
ほさか・のぶと 1955年、宮城県生まれ。16歳で内申書の内容を争う原告となり、定時制高校を中退。教育ジャーナリストとして活動。96年の総選挙で社民党から初当選。2009年8月の総選挙で落選した。3期務めた在任中の質問回数は546回を数え「国会の質問王」の異名をとった。

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