前原国交相1人で戦うのは無理がある
――八ッ場ダムは現在では多目的ダムということになっているが、もともとは1947年に関東地方に甚大な被害をもたらしたカスリーン台風を契機として、洪水対策のために計画されたダムだ。
保坂 カスリーン台風なみの台風が再来した場合、利根川では群馬県と埼玉県の県境にある八斗島地点で、毎秒2万2000立方メートルの水量が流れるというのが、国交省河川局の出している数字だ。いまの利根川の治水能力(計画高水)は1万6500立方メートルなので、その差である5500立方メートルを上流のダムでカットしないといけないという。ところが八ッ場ダムを作っても、あと4つか5つ、ダムを作らないと埋まらないという問題がある。
もう一つ、水量を計測するポイントとなる八斗島(群馬県伊勢崎市)の上流には堤防がないところもあって、大雨のときには田んぼなんかに遊水地的に水があふれている。ところが、ダム建設の前提になっている毎秒2万2000立方メートルというのは堤防が整備されたときの数字なので、現実に流れる水量はもっと少ない。つまり、2万2000というのは架空の数字だということもわかってきた。治水論もはなはだトリックにみちているわけだ。
――前原国交相は「できるだけダムに頼らない治水を目指す」と言って、八ッ場ダムの中止を宣言した。民主党のマニフェストに沿ったものだ。
保坂 前原さんは非常に勉強しているし、優秀だと思う。ただ、八ッ場ダム中止の切り出しは良かったが、生活再建プランとか、その後の対策が何ひとつ示されていない。そこに問題がある。公共事業をずっとみてきた横断的な野党のチームもあるのに、その力を生かそうともしていない。
いくら前原さんが優秀でも、全国のダムでメシを食べている人の数を考えたら、1人で戦うことはできない。やっぱり国交省河川局という組織を相手に政策を切り替えるなら、こちらも軍団を編成しないとだめだろう。
――前原国交相は、ダムの専門家などで作る有識者会議で、八ッ場ダムを含めた89事業の検証をするとしている。
保坂 有識者会議について前原さんは「ニュートラルな人選だ」と言っているが、ほとんど話にならない。国交省河川局の河川行政に関わってきて、その誤りをふくめて責任を負うべき人たちが並んでいる。たとえば座長の中川博次さん(京大名誉教授)は、ゼネコンやダム関係業者で組織するダム・堰施設技術協会の会長を務めている人だ。このメンバーで見直したら、「八ッ場ダム再開」という結論を出しても不思議はない。