日本を動かしているのは我々だ――。実際の財務官僚は、そんな「自負心」をもつ人たちばかりなのだろうか。「寝る間もないほどの激務を安い給料でこなしている」という声もあるが、彼らの出世と待遇の実態はどのようなものなのか。元財務官僚で安倍政権の内閣参事官も務めた、政策工房会長、高橋洋一さん(54)に聞いた。
民間と役所、人材入れ替えできるシステムを
――財務省に入る若い人は、最初から自分は偉くなるぞ、と出世のイメージを持って入ってくるのでしょうか。
高橋 人それぞれですね。私は「変人枠」で入った人間ですから違います。そういう人間の目にどう映ったか、ということですが、今指摘されたような人は確かにいました。将来的に国のリーダーに、ということを考えていましたね。財務省は、役所の中でも議員化率が高いといえます。私の同期23人からは3人も国会議員が生まれました。今は自民の2人が落選してますが。この3人は若いときからそうした志向がうかがえましたね。
――死ぬほど働いて泥のように眠る、なんて話も聞きます。国会待機など、そんなに忙しい日が続くのですか。
高橋 そんなことはありません。メールを使えば自宅作業が可能な場合もありますし、答弁書を書くこと自体はとても簡単なんです。踏み込んだことは何も書かない訳ですから。朝は、答弁書を大臣に説明するために早いと言えますが、夜の仕事はたいしたことはありません。
中には300時間超過勤務した、なんていう人もいましたが、周囲や部下に話をきくと、不必要にぐるぐる回っているだけで、早く帰ればいいのに、なんて言われている始末でした。私の超過勤務は20時間ぐらいのものでしたね。
――待遇面では、民間一流企業に比べ恵まれていない、という不満もあるようですが。
高橋 役所の仕事は、密度は薄い割にそこそこ(給料を)もらっていると個人的には思っていました。直接予算編成をする部署は少しだけ給料基準が高いのですが、そんなには違いません。バブル景気のときは確かに民間より低いな、と感じたことはありました。しかし、今のようなデフレになってくると、むしろ公務員の待遇は魅力的になってきているのではないでしょうか。
――天下りを正当化する議論として、一定の年齢まで安い給料で我慢して働いているのだから、後でその分を取り戻すのは仕方ないではないか、という声も聞きます。
高橋 果たして役人の給料は安いのか、と疑問を感じます。今のシステムの問題は、役所に入ると蛸壺で出入りの自由がきかない点にあると分析しています。世界的には、学者やマスコミ、実業界などの民間と役所との人材の入れ替えが行われるようになっています。日本のあり方は特殊なのです。世界基準に改めるべきだと考えています。そうすれば天下り先は不要になります。
民主党、財務官僚に完全屈服は間違いない
――天下りを含め、待遇面をしっかりしないと優秀な人材が集まらない、という人もいます。
高橋 そこそこのレベルの人で十分なのではないでしょうか。「いい待遇」なんかを気にする人材ではなく、本当に「国民のために働きたい」という人たちを集めればいいと思います。世界の潮流を見ても、政府の重要性は落ちてきています。以前は、政府は全知全能で大変重要だと考えられた時期もありました。しかし、「政府の失敗」という言葉もでてきて、政府も間違うことがあるし、むしろ市場に任すべきで政府は何もしない方がいい、という考え方が出てきました。こうしたことは市民感覚でも浸透しているのではないでしょうか。
――財務官僚は「お婿さん候補」としてモテモテで、秘書課長の机には見合いを望む女性の写真がズラリと揃っているそうですね。
高橋 はい、それは本当です。私自身は学生結婚だったので無縁でしたが、周りには紹介してもらった者が結構いましたね。今はどうなのか知りませんが。
――最後に、民主党政権になって、官僚と政治家の距離は変わってくるのでしょうか。
高橋 かつて、首相のときの小泉さんは、距離感の取り方が抜群にうまかったですね。大臣の竹中さんと秘書官の飯島さん・(財務省出身の)丹呉さんを、A面B面のように使って、官僚と距離を置いたりうまく利用したりしていました。独特の嗅覚があったのでしょう。
安倍さんの内閣のときは、理念通りに官僚と距離を置いて公務員改革を進め、正しい方向でしたが、それで官僚組織に足をすくわれてしまいました。以降の自民内閣は、再度官僚に取り込まれました。
そして今の民主党ですが、安倍さんのときの状況を見ていたんでしょう、官僚との距離感はぐっと縮まっていて、もはや「密着」状態です。
――日本郵政社長に、大物財務省OBの斎藤次郎さんをつけた人事がありましたね。やはり彼の影響力は大きいのですか。
高橋 財務省の誰に質問するかで答えは異なるでしょう。一応、今では省と斎藤さんとは「距離がある」ということになっていますが、かつての部下や姻族もいるし、それで「距離がある」という感覚は、普通ではない気がします。いずれにせよ、「事業仕分け」の内実を見ても、民主党は財務官僚に完全屈服したのは間違いありません。
++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。著書に「さらば財務省!」、「日本は財政危機ではない!」、「恐慌は日本の大チャンス」(いずれも講談社)など。現在、J-CASTニュースで「高橋洋一の民主党ウォッチ」を連載中。