手術や救命医療で大量に使われる輸血用血液製剤は、大半を献血に頼っている。ところが、若年層の献血離れが著しく、16~19歳の献血者は24年間で5分の1に、20歳代は半分以下に減った。このままでは将来、血液を安定して供給できなくなるとして、厚生労働省は男性の献血対象年齢を一部引き下げることを決めた。早ければ2011年4月から実施される。
17歳男性献血量400ミリリットルに引き上げ
2008年の実績を1985年と比較すると、10、20歳代ともに献血者が大幅に減っている。1985年の16~19歳を見ると、献血者179万人、献血率(人口に占める献血した者の割合)25%。20歳代は献血者260万人、献血率は17.6%だった。08年は16~19歳の献血者が1985年の5分の1に、20歳代は半分以下になった。大幅に献血者が減ったのは、少子化による人口減少に加えて、若者の献血離れが進んだためだ。
輸血用血液製剤は救命医療やガンなどの大きな手術で主に使われ、高齢者の患者が多い。大半を献血に頼っているので、若者や健康な人が献血をやめたら成り立たない。
厚生労働省血液対策課の担当者は、
「全体的に減っていますが、若者の献血率の低下は尋常じゃないです。20数年でこれだけ減っているのは、若者の個人意識が高まり、助け合いで成り立っている献血に対しての意識が変化していることが大きいと思います」
といっている。
一方、16、17歳の献血が減っているのは、医療機関の血液需要が400 ミリリットルに移行していることも影響している。16、17歳は献血量が制限されていて、18歳以上は400ミリリットルなのに対し、16、17歳は200ミリリットルだ。
厚生労働省薬事・食品衛生審議会の血液事業部会は400ミリリットル献血の対象を17歳男性に広げることを2009年12月24日に決めた。年明けにパブリックコメントを募集し、同部会の最終的な承認を得て、省令改正となる。実施されるのは早くて2011年4月となる見通しだ。
ただ、厚労省血液対策課の担当者は、
「今回、年齢を下げようとしているのは今、在庫が足りないからではなく、長期的な安定供給を考えてのことです」
といっている。
献血ルームに「初音ミク」のフィギュア展示
男性は17歳から400ミリリットル献血が可能になったとしても、献血率が上がらなければ意味がない。そこで、若者の献血を増やすための試みも行われている。
厚生労働省は高校生向けに献血に関するパンフレットを作成し、配布している。職員が出張講座を行うこともある。ただ、6~7割の高校はパンフレットを配るだけで、効果のほどは疑問だ。
そんな現状を踏まえ、文部科学省は09年12月に発表した保健体育の高校指導要領解説で、「献血の制度があることについても適宜触れる」との内容を初めて盛り込んだ。2013年4月以降の保健体育の教科書にほぼ確実に載る予定だ。
また、東京・渋谷や秋葉原など若者がたくさん集まる場所では献血ルームの設置が進んでいる。献血をするとマンガ読み放題、ジュース飲み放題というマンガ喫茶のようなサービスをタダで受けられる。その効果もあって、渋谷・ハチ公前の献血ルームには土日、20歳代を中心とする若者が150人弱も献血に訪れる。
09年10月1日に秋葉原にオープンしたばかりの「akiba:F献血ルーム」は土日150人以上にもなる。宇宙船をイメージし、献血ルームには見えない造りで、歌うバーチャルアイドル「初音ミク」のフィギュアなどを展示。11月27日から献血した全員に初音ミクのステッカーを配布している。運営している東京都赤十字血液センターの企画担当者は、
「物で釣るという言い方は悪いですが、どうしたら若い人に来てもらえるかと試行錯誤しています」
といっている。
献血は本来、無償で行うという常識を覆すような、至れり尽くせりのサービスだが、背に腹は変えられないようだ。