トヨタ、トヨペット、カローラ、ネッツ、そして高級車のレクサス。販売規模が縮小する国内市場で、トヨタ自動車だけが5つもの販売チャンネルを抱えている。すでに日産自動車、ホンダ、マツダ、三菱自動車は実質的に販売チャンネルを一本化。軽自動車を除く登録車シェアで46%を占めるトヨタにとっても国内販売の効率化は課題だが、最大手トヨタならではの事情でチャンネル統合はすぐには実現しそうにない。
チャンネル再編という手間のかかる手法を避ける代わりに、商品の併売化を進めることで複数チャンネルを維持するコストを引き下げていく方針だ。
トヨタ店とトヨペット店は異資本の競合関係にある
「自分の城は自分で守れ」―トヨタ自動車工業第3代社長で、「トヨタ中興の祖」といわれた石田退三氏の口ぐせは今もトヨタディーラーの経営者に受け継がれている。トヨタ国内販売の特徴はメーカー資本でない、地場資本による有力ディーラーが各地に根を張り、市場を守っているところにある。
日産、ホンダなどにも地場ディーラーは存在するが、直営ディーラーのほうがより多く新車を販売しており、メーカーとディーラーが親子でなく対等の関係にある色合いはトヨタがもっとも濃い。
市場拡大期には地場資本主体のトヨタの国内販売はうまく機能してきた。同じ地域内に異なる地場資本グループがあり、販売規模や顧客満足を競ってきたからだ。ところが今のように市場が縮小し、全体構造の見直しが不可欠になったときには不便が生じる。仮にトヨタ店とトヨペット店を統合して新しいチャンネルを発足することにした場合、同じ看板の店がいたる所に出現するだけではない。トヨタ店とトヨペット店はほとんどの地域で異資本の競合関係にあり、トヨタが間に入ったとしても店舗網の合理化を調整するのは非常な困難をともなう。そもそも、チャンネル統合自体をディーラーに納得させることがむずかしい。
プリウスのように同じ車を全店に供給する戦略
旧トヨタオート店と旧ビスタ店をネッツに一本化した実績がトヨタにはある。しかし、トヨタ、トヨペット、カローラとなると規模が大きく、地場資本グループの本家であることも多い。日産やホンダのようにメーカー連結対象の直営ディーラーの販売割合が大きければ思い切ったチャンネル政策もとりやすいがトヨタはそう簡単にはいかない。
かつてはトヨペット店のマークⅡ、トヨタオート店のチェイサー、ビスタ店のクレスタというように、同じ商品の顔を変えて各チャンネルに商品を供給していた。今は同じ車を2チャンネルで併売することが多いがそれでも国内商品の開発や生産には販売台数に引き合わない手間がかかっている。今後はプリウスの全店併売に踏み切ったように、ディーラーニーズでなくユーザーニーズに照準を当てた商品を開発して全店に供給し、開発、生産、販売の効率を高める方針だ。