資産を計算に入れると…
それでも、金利上昇論者は、ストックの国債残高が800兆円にもなり、これはGDPの160%で世界でダントツに悪いという。
これは、政府を企業にたとえてみれば(たとえとしては家計よりまとも)、債務残高の売上高比率や利益比率のようなものだろう。これは確かに一理ある。ただし、企業ならば、グロスの債務残高ではなく、資産を差し引いたネットの債務残高に着目するだろう。07年度の政府B/Sを見ると、国債等798兆円を含む負債総額は978兆円、資産総額は695兆円。資産負債差額は▲283兆円で債務超過。金利上昇論者はこれを民間業者なら倒産という。
ところが、世界でみれば政府は債務超過で当たり前。また、ネット債務残高はGDPの60%以下であり、世界の中で低いとはいえないが、それでも突出して高いわけでもない。GDP比160%との違う世界に見えるのは、日本は世界でも有数の資産を政府が持っていることを意味する。資産のほうをみれば、現預金32兆円、有価証券105兆円、貸付金190兆円、出資金58兆円などが目につく。大雑把にいえば、借金800兆円のうち、これらの金融資産が400兆円になっている。しかも、その大半は役人の天下り先である独立行政法人などのものだ。要するに、そうした組織がなくなれば、800兆円のうち半分くらいはチャラにできる。こうした借金まで国民は返済することはないから、国民の負担とは考えない。このため、国債はグロスでなくネットで考えるべきだということになる。
とはいうものの、筆者は単純に金利上昇なし論者ではない。日銀がデフレ解消に熱心でないのは、前回述べた。ということは、日銀のさじ加減で金利上昇はありえるからだ。確実なのは、日銀が本気でデフレ脱却しようとすれば金融緩和のはずで、そうなればデフレ脱却までは金利上昇はないということだ。
++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。著書に「さらば財務省!」、「日本は財政危機ではない!」、「恐慌は日本の大チャンス」(いずれも講談社)など。