印象に残る年賀状 「手書き」の使い方がカギ
明治大学文学部・齋藤孝教授に聞く

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   2009年12月15日から年賀状受付が始まった。どんな年賀状を出したらいいのか。できれば印象に残るものにしたい。そう思って、頭を悩ませている人は意外に多い。日本語やコミュニケーション論に詳しい明治大学文学部・齋藤孝教授に、年賀状の書き方のコツを聞いた。

「その年のお気に入りの熟語を書く」

齋藤孝教授「手書きの年賀状には『人の肌触り』を感じます」
齋藤孝教授「手書きの年賀状には『人の肌触り』を感じます」

――思い出の年賀状はありますか。

齋藤教授   一番心に残っている年賀状は、浪人して東京に出てきた時にもらったものです。差出人は地元、静岡県の塾の先生。「初志貫徹」とだけ書かれていたのが印象的でした。先生の意図はこれだけで伝わってきました。受験生だった当時の私は、その言葉で改めて気が引き締まって、志望は変えまい、と決意したのを思い出します。

――ご自身はどんな年賀状を書いていますか。

齋藤教授   年賀状は印刷するのが当たり前になっていて、全部手書きというのはしんどい。でも、必ず手書きの言葉を添えるようにしています。それも毛筆で書くようにしています。作った年賀状に必ず、2~3行のスペースをあけます。ここに文字を書き込んでいく。毛筆で書くと文字が大きくなるので、空白の部分が気持ちよく埋まって、ビシっと決まる。それが気に入っています。
   また、最近は「下手うま」というのでしょうか、ちょっぴり下手くそな字でも毛筆だと味があるということで許されます(笑)。逆に硬筆で書くと字が下手なのが目立ってしまって……(笑)。ただ、何枚も書いていると、だんだんうまくなってくるのも楽しいものです。私は色紙を求められると「渾身」「上機嫌」と書くことが多いんですが、年賀状には、その年のお気に入りの熟語を書くこともあります。何かテーマがあると、書きやすかったりもしますね。

――仕事柄、枚数は多いのでは。

齋藤教授   例年、全部で300枚くらいかな? たしかに仕事関係が多いですね。昔、知り合った人の名刺を無くしてしまい、焦って年賀状を探したことがありました。年賀状は捨てにくいので、こういう時、本当に便利です。また、1年に1度の年賀状のやりとりだけなのに、その人とはずっと関係が続くこともよくあります。それを機にある時、仕事につながったこともありました。ですから、あんまり気を重く考えず、お互い肩肘張らないやりとりをするのも良いと思います。

年賀状は「正装」、メールは「ジーンズ」

――年賀状の魅力は何でしょうか。

齋藤教授   ふだんあまり会わない人に近況を伝えたり、面と向かっては言えないことを言えたりするのは良いですね。それに、手書きの年賀状には「人の肌触り」を感じます。その人の『体温』が感じられる、というか。今の時代、一番喜ばれて、価値があるものではないでしょうか。
   だから、手書きの年賀状はいいと思います。書く字は別に下手でかまわない。私が毛筆を勧めるのは、字それ自体に生命力を感じるからです。下手でも下手なりの生命力はすごく伝わってきますし、人を惹きつけると思います。

――ところが、今はメールを利用する人もいます。

齋藤教授   年賀状は日常とは全く違ったもので、改まったものだと思います。服装にたとえると正装で、ドレスアップした感じがします。クラシック音楽を聞きにいくのは正装で出かけるでしょう。その方が気分は盛り上がったり、雰囲気に価値がでたりします。
   それに比べて、メールはいわばジーンズか、仕事用のスーツみたいな感じでしょうか。メールはたしかに、要件を伝えるには大変便利なツールです。日常的な友達同士の待ち合わせや、日常的な細かい仕事のやりとりには向いていますし、今や欠かせません。でも、年賀状をメールで送るというのは日常の延長のようで、年賀状の持つ改まった気持ちには合わないと思います。

――今年の年賀状には何を。

齋藤教授   年賀状には、ちょっとした近況を入れるようにもしています。しかし、仕事先にも出すことを考えると、プライベートとパブリックの加減が大変といえば大変。その辺は、さしさわりのない話題を交えるようにしています。
   実は今年、チェロをはじめたんです。近況報告にはそれを書こうかとも思っています。私を知っている人であれば、私がチェロを弾くのは違和感があることなんですよ(笑)。運動部体質でスポーツや武道ばかりやってきたので、音楽というのは絶対イメージが沸かない(笑)。なので、笑ってもらえそう。
   チェロはさきに子供がやっていて、部屋に楽器を置いているんですが、取材に来る人が口々に、「先生はチェロをおひきになるんですか」と。それで、自分もはじめたわけです。年賀状に吹き出しを作って、「チェロはじめました。『ちょうちょ』弾けます」なんて書いてみるのも楽しそうです。年賀状にユーモアを添えるのも悪くないですね。

齋藤孝さん プロフィール
さいとう・たかし 1960年、静岡生まれ。東京大学法学部卒業後、東京大学大学院教育学研究科 学校教育学専攻博士課程を経て、現在は明治大学文学部教授。専門は教育学、身体論、コミュニケーション論。2001年には、新潮学芸賞を受賞した『身体感覚を取り戻す』(NHKブックス)、シリーズ260万部を超えたベストセラー『声に出して読みたい日本語』(草思社)が話題に。ほか、教育やコミュニケーションをテーマにした書籍、ビジネス書など著作多数。

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